§1§
「あれから何日が経ったかな・・・・」
ディックは薄暗い部屋の天井を見ながらそう呟いた。アルはあの日以来顔を見せて居なかった。この部屋に来る者といえば日に一度、水夫が食事を持ってくるだけだった。
「どうせ殺すなら飯なんか持って来なけりゃいいのに・・・なまじっか食うと、後で腹が減るじゃねぇか・・・」
ディックはそう言うと頭を振った。頭の中で交錯する色々な思いを振り切るように。
「いくら船長が御人好しでも来るわけがねぇ・・・もう俺はお払い箱なんだからな・・・・・」
何故こうなったのか?パズルのピースが1つ合わないような不快感。だが、それは誰のせいでもない。それはディックが一番よくわかっていた。原因は誰でもない、自分にあったのだから・・・・
そのディックの思考を止めたのは扉の開く音だった。ディックが扉の方を見ると、二人の男が入ってくる所だった。一人はいつも食事を持ってくる水夫、そしてもう一人は・・・・
「おい、何黙りこくってるんだ?こんな所に閉じ込められて気が変になったか?」
「けっ!そう簡単に気が変になるかよ!さっさと飯を置いて行っちまえ!」
そう言う男の後ろで口元で指を立てて見せる男・・・ギムを見ながらディックはそう言った。
「言われなくてもそのつもりだぜ、何が楽しくてこんな臭い部屋に長居するかよ!おい、フレッド!あとは頼むぞ!」
「はい、ハサンさん」
フレッドと呼ばれたギムはハサンに答えると、食事の置かれたトレイを持って部屋の中に入った。それと入れ替わりにハサンが部屋を出て行く。
「フレッド、それが終わったら今度は甲板の掃除だ、新入りには仕事が山ほどあるんだからな!」
「わかりましたハサンさん」
ギムの答えに満足したのか、ハサンは階段を上って行った。そして、それを確認したギムは扉を閉めると、ディックに駆け寄った。
「甲板長・・・大丈夫ですか?」
「ああ・・・なんとかな・・・でも何であんたがここに?」
「それは・・・ラドリック様の指示です」
ディックの問いかけにギムはそう答えると、ディックの両手首に、持っていた膏薬を塗りつけた。鉄鎖で両手を拘束されているディックの手首には無数の擦り傷ができていたからだ。
「船長の?まさか船長はアルの呼び出しに応じたって言うのか!」
「甲板長、大声を出さないでください」
「す・すまねぇ・・・」
ギムは膏薬を塗り終わると、ディックに向き直った。
「甲板長・・・明後日の午後、ラドリック様はBlue galeでこの船に来ます。表向きはアルの呼び出しに応じたという事でです」
「Blue galeで・・・?あの船は小型船だぞ!?なんでBand of lightで来ないんだ?みすみすやられに来るようなものじゃないか!」
「だから大声を出さないでください甲板長。アルは前もって小型船で来るように指示してきたんです。それをBand of lightのような大型船で来れば、アルは逃げ出すに決まっています・・・・だから、私が先にこの船に来たんです」
ギムはそう言うと、言葉を続けた。
「明後日の午後、ラドリック様がアルと交渉をしている隙に私が甲板長を助けに来ます。甲板長はそれまで辛抱してください・・・いいですね?」
「・・・・わかった」
ディックはギムの言葉に頷いた。
「しかし・・・・俺を助け出したってどうやって逃げるつもりだ?俺と船長とあんたが居るとはいえ、相手は100人近く居るんだぞ?」
「もちろん近くに副長の指揮でBand of lightが商船に擬装して待機しています。それに、Blue galeの方には斬り込み隊から精鋭を選りすぐって副甲板長とロイが率いてます」
「副甲板長・・・」
ギムのその言葉にディックの表情が変わる。その変化を察したのか、ギムは静かに言葉を続けた。
「甲板長、貴方の気持ちはわかりますが、ラドリック様の船の甲板長は貴方しか居ません。恐らくラドリック様も同じ気持ちだと思います。ニーナ副甲板長は私の目から見ても優秀な航海士です。だが、ラドリック様の船の甲板長は貴方です。ロイもそれはわかっているはずです。甲板長・・・貴方もわかっているんでしょう?」
「・・・・・」
「副甲板長が優秀だと思ったから、ロイは安心して他の道へ進めるんです。これは決して貴方の元を去るということではないと思うのですが・・・・」
しばしの静寂・・・・
「私としたことが少し喋り過ぎたようです」
ギムはそう言うと、扉を開けた。
「甲板長、明後日もう一度来ます」
ギムはそう言うと、ディックの返事を待たずに部屋を出て行った・・・
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