2011年06月01日

因縁の結末 §後編§

§1§



「あれから何日が経ったかな・・・・」

ディックは薄暗い部屋の天井を見ながらそう呟いた。アルはあの日以来顔を見せて居なかった。この部屋に来る者といえば日に一度、水夫が食事を持ってくるだけだった。

「どうせ殺すなら飯なんか持って来なけりゃいいのに・・・なまじっか食うと、後で腹が減るじゃねぇか・・・」

ディックはそう言うと頭を振った。頭の中で交錯する色々な思いを振り切るように。

「いくら船長が御人好しでも来るわけがねぇ・・・もう俺はお払い箱なんだからな・・・・・」

何故こうなったのか?パズルのピースが1つ合わないような不快感。だが、それは誰のせいでもない。それはディックが一番よくわかっていた。原因は誰でもない、自分にあったのだから・・・・

そのディックの思考を止めたのは扉の開く音だった。ディックが扉の方を見ると、二人の男が入ってくる所だった。一人はいつも食事を持ってくる水夫、そしてもう一人は・・・・

「おい、何黙りこくってるんだ?こんな所に閉じ込められて気が変になったか?」

「けっ!そう簡単に気が変になるかよ!さっさと飯を置いて行っちまえ!」

そう言う男の後ろで口元で指を立てて見せる男・・・ギムを見ながらディックはそう言った。

「言われなくてもそのつもりだぜ、何が楽しくてこんな臭い部屋に長居するかよ!おい、フレッド!あとは頼むぞ!」

「はい、ハサンさん」

フレッドと呼ばれたギムはハサンに答えると、食事の置かれたトレイを持って部屋の中に入った。それと入れ替わりにハサンが部屋を出て行く。

「フレッド、それが終わったら今度は甲板の掃除だ、新入りには仕事が山ほどあるんだからな!」

「わかりましたハサンさん」

ギムの答えに満足したのか、ハサンは階段を上って行った。そして、それを確認したギムは扉を閉めると、ディックに駆け寄った。

「甲板長・・・大丈夫ですか?」

「ああ・・・なんとかな・・・でも何であんたがここに?」

「それは・・・ラドリック様の指示です」

ディックの問いかけにギムはそう答えると、ディックの両手首に、持っていた膏薬を塗りつけた。鉄鎖で両手を拘束されているディックの手首には無数の擦り傷ができていたからだ。

「船長の?まさか船長はアルの呼び出しに応じたって言うのか!」

「甲板長、大声を出さないでください」

「す・すまねぇ・・・」

ギムは膏薬を塗り終わると、ディックに向き直った。

「甲板長・・・明後日の午後、ラドリック様はBlue galeでこの船に来ます。表向きはアルの呼び出しに応じたという事でです」

「Blue galeで・・・?あの船は小型船だぞ!?なんでBand of lightで来ないんだ?みすみすやられに来るようなものじゃないか!」

「だから大声を出さないでください甲板長。アルは前もって小型船で来るように指示してきたんです。それをBand of lightのような大型船で来れば、アルは逃げ出すに決まっています・・・・だから、私が先にこの船に来たんです」

ギムはそう言うと、言葉を続けた。

「明後日の午後、ラドリック様がアルと交渉をしている隙に私が甲板長を助けに来ます。甲板長はそれまで辛抱してください・・・いいですね?」

「・・・・わかった」

ディックはギムの言葉に頷いた。

「しかし・・・・俺を助け出したってどうやって逃げるつもりだ?俺と船長とあんたが居るとはいえ、相手は100人近く居るんだぞ?」

「もちろん近くに副長の指揮でBand of lightが商船に擬装して待機しています。それに、Blue galeの方には斬り込み隊から精鋭を選りすぐって副甲板長とロイが率いてます」

「副甲板長・・・」

ギムのその言葉にディックの表情が変わる。その変化を察したのか、ギムは静かに言葉を続けた。

「甲板長、貴方の気持ちはわかりますが、ラドリック様の船の甲板長は貴方しか居ません。恐らくラドリック様も同じ気持ちだと思います。ニーナ副甲板長は私の目から見ても優秀な航海士です。だが、ラドリック様の船の甲板長は貴方です。ロイもそれはわかっているはずです。甲板長・・・貴方もわかっているんでしょう?」

「・・・・・」

「副甲板長が優秀だと思ったから、ロイは安心して他の道へ進めるんです。これは決して貴方の元を去るということではないと思うのですが・・・・」

しばしの静寂・・・・

「私としたことが少し喋り過ぎたようです」

ギムはそう言うと、扉を開けた。

「甲板長、明後日もう一度来ます」

ギムはそう言うと、ディックの返事を待たずに部屋を出て行った・・・




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2008年11月09日

因縁の結末 §前編§

§1§



「うぅ・・・・ここは・・・どこだ・・・・?」

ディックは鈍痛のする頭を振りながら周りを見渡した。
さっきまで飲んでいた酒場ではないのはわかる。何故なら、ディックの両手は座っている椅子にロープで縛られているからだ。

「何で俺は縛られているんだ・・・・?酔っ払った勢いで暴れたか・・・」

そう呟きながらディックは再び周りを見回した。部屋には蝋燭の頼りない光がともり、辺りを照らしていた。広さは船の個室ぐらいだろうか・・・ここが酒場ではない事は確かだった。

「一体ここは・・・・・」

そう、ディックが呟いたその時、部屋の扉が開き、一人の男が手下だろうか、数人の男達を率いて入ってきた。男はディックの前に立つと、ディックを見下ろした。

「どうだディック・ウォレン。目覚めは爽快かな?」

男はそう言うと、唇の端を上げるように笑った。

「・・・・・お前は・・・・」

「ほう、覚えていてもらったとは光栄だ。まあ俺は嫌でもお前の事は忘れられんがな」

「・・・・・なんでバルバリア海賊のお前がこんな所にいるんだよ、アル・セヴァス・・・」

ディックがそう言うと、その男・・・アルは、大げさに首をすくめて苦笑して見せた。しかし、目は笑っていない。

「お前からそんな言葉を聞くとはな、ディック・・・お前達が逃げ出したお陰で俺はナッソーにも居られなくなったのさ、そう・・・お前達のせいでな!」

「けっ・・・・自分の不始末を人のせいにすりゃ世話が無いな・・・結局お前さんは一人立ちできるような器じゃないって事じゃないか」

「黙れ!」

ディックの言葉にアルはそう叫ぶと、ディックの腹を思いっきり蹴った。衝撃に耐え切れず、ディックは椅子と共に床に倒れこんだ。

「ぐっ・・・・・」

「お前達が・・・・そうだ、あの時お前達がイスパニアの船の手助けさえして無ければ、俺はこんな所で燻ってなんか無かったんだよ!」

激昂したアルは、そう言いながらも何度もディックの腹を蹴った。

「ぐはぁ!!」

「船長!それ以上やったら人質の意味がなくなります!」

なおも蹴り続けようとするアルを、手下が背後から羽交い絞めにしながら言った。

「はぁ・・はぁ・・・そうだな、ここで殺すわけにはいかないからな・・・・」

「・・・・・・・人質だと・・・・どういうことだ・・・・・」

痛みを我慢しなが問いかけるディックを見下ろしながら、アルは笑う。

「お前の敬愛する船長・・・ラドリックとか言ったな、あの若造に手紙を出したのさ。お前の命が助けたければ、指定した場所に来い・・・とな。自分の船の甲板長を人質に取られては、あの船長も来ない訳にはいかんだろう」

その言葉を聞いた途端、ディックは大きな声で笑い始めた。

「何がおかしい!」

「残念だったなアルさんよ!俺はもうあの船長の船の甲板長じゃないんだよ!」

「何だって!?嘘を言ってもすぐにばれるんだぞ!」

「嘘じゃねぇさ、今頃あの船の甲板長はニーナって言う女が務めているはずさ。俺はもうお払い箱なんだよ、あんたもご苦労なこった!来もしない奴を待つのはやめて、さっさと俺を始末したほうが手間がかからないぜ!」

ディックの言葉にアルは呆然としていたが、すぐに気を取り直し言葉を続けた。

「まあいい、とりあえず約束の日までは生かしといてやる。来ればそれでよし、来なければその時に改めてお前を始末してやる。それまでせいぜい死の恐怖に怯えるんだな!」

アルはそう言うと、手下を引き連れて部屋を出た。そして扉が閉まると、鍵をかける音が聞こえ、辺りに静寂が戻った。

「・・・・・・来るものかよ・・・・・」

ディックは血の混じった唾を床に吐くと、そう呟いた・・・・・



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2008年06月24日

亀裂 §後編§

§1§



「・・・・なんでってんだ、どいつもこいつもよ・・・・」

ディックはそう呟くと、グラスの中の酒を一気にあおった。喉に焼けるような痛みが走るが、ディックはお構い無しに飲み続けた。

「船長も船長だ、あんな奴をいきなり副甲板長にするだと・・・?」

ディックは酒瓶からグラスに酒を注いだ。Band of lightを後にしたディックは、丁度ロンドンから出航する商船に強引に乗り込むとコペンハーゲンへと向かった。何かあてがあったわけではない。ただロンドンから離れたかっただけだった。そして、コペンハーゲンで船を下りたディックは酒場に入ると、酒場の隅で酒瓶を抱えて飲んだくれていたのである。

「ロイの奴は俺と組むより冒険を選んだ・・・そりゃ、俺だってわかっているさ、確かにロイよりあの女の方が腕は遥かに上だ・・・だがよ・・・」

ディックは酔眼でグラスに注がれた酒を見ると一気に飲み干した。そして空のグラスに酒を注ぐ。

「俺とロイは・・・・昔から・・・そう、昔から一緒にやってきたんだ・・・・そう・・・あの時も・・・・」





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2008年03月19日

亀裂 §中編§

§1§


「さあかかってきな!甲板長さん!」

「その減らず口を黙らせてやる!」


強い日差しが照りつけるBand of lightの甲板で、二人の戦士は同時に動いた。放たれた斬撃が、太陽の日差しを浴びて交差する。

「このBand of lightの甲板長は俺だ!それが俺の誇りだ!それをお前のような奴に譲れるものかよ!」

ディックはそう叫ぶと、ニーナに向けて力強い斬撃を加えた。しかし、手加減のないその斬撃を、ニーナは華麗とも言える体捌きでかわす。

「はっ!こんな大振りな剣術で甲板長だって?聞いて呆れるね!」

「何を!」

「本当の剣術ってのはこういうのを言うのさ!」

ニーナはそう言うと、ディックに向けて、矢継ぎ早に斬撃を浴びせた。ディックの剣を燃え盛る炎に例えるならば、ニーナの剣は風・・・恐らく正式の剣術を学んでいるのだろう、フェイントを加えた斬撃にディックは翻弄される。

「くっ!ちょこまかと・・・」

繰り出される斬撃を受け止めつつ、ディックは反撃の機会を探っていた。確かにニーナの隙のない連続攻撃はディックを翻弄している。しかし、一つ一つの攻撃は軽いのだ。

「どうしたんだい甲板長さん!足が止まってるよ?もうおねんねかい!」

ニーナは攻撃を繰り出しながらディックを嘲弄する。しかし、ディックは黙ったまま攻撃を受ける事に専念していた。

「これで終わりさ!!」

ディックが反撃しない事を好機と捉えたのだろう、ニーナは一歩踏み込んでディックに鋭い斬撃を繰り出した。そして、その斬撃がディックを捕らえたかと思われたその瞬間、ディックは斬撃をよけるのではなく、ニーナに向けて一歩踏み込んだ。

「待ってたぜ、この瞬間をな!」

「な・なんだって!」

ディックが前に踏み込んだ事によって、ニーナの斬撃は空を切る。そして、ディックはそのままニーナに体当たりを食らわせた。その衝撃でニーナは後ろに倒れこんだ。ディックの肩が胸に当たったのだろう、すぐには起き上がれず苦悶の表情を浮かべる。

「所詮は女だな、力では男に敵わない事がわかっただろう!」

そう言いながら見下ろすディック・・・・しかし、ニーナはディックを睨みつけると、ディックに向けて唾を吐いた。

「はっ!まだ勝負は終わっちゃ居ないよ!ごたくを並べる前にさっさとかかってくりゃどうだい!」

「こいつ!!」

ニーナの言葉に激昂したディックは、まだ起き上がれていないニーナに襲い掛かった。しかし、ニーナは素早く体を起こすと、ディックの足に足払いをかけた。ディックはバランスを崩して顔から甲板に倒れこむ。

「ぐっ・・・」

「甲板長!あんたはとんだ甘ちゃんだね、敵の戦闘力を奪うまでは攻撃の手を休めない、それが戦いの基本だろう?さっさと立ちな!決着をつけてやるよ!」

ニーナは倒れこんでるディックを罵る。ディックは素早く立ち上がると間合いを取った。

「それはこっちの台詞だ!もう手加減はしねぇ、次で終わらせてやる!」

再び剣を構えた二人は、間合いを取りながら相手の様子を伺う・・・・そして、二人は同時に斬撃を放った・・・・・



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posted by ラドリック at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月12日

亀裂 §前編§

§1§



「坊ちゃん、パブロ提督から手紙が来てますぜ?」

「パブロさんから?」

ロンドンのアパルタメントで久しぶりの休息を取っていたラドリックは、手紙を届けに来たエドに問いかけた。

「ええ、坊ちゃん宛にとさっきサントドミンゴから帰ってきた商船隊の船長が船に届けてくれたんでさ」

エドはラドリックにそう答えると、手紙を差し出した。ラドリックは、読みかけの本を机に置くと手紙を受け取り、ペーパーナイフを使って手紙を封を開ける。

「確か、パブロ提督はAbel船長の所に居るんでしたね?」

「ああ、そうだ。いつもならAbel神父のアパルタメントに居るはずなんだが・・・・」

元イスパニア海軍提督パブロ・アルベニスは、ラドリックとAbelがかかわった一件で軍を退役した後、Abelの懇願に応えてAbelの執事として第二の人生を送っていた。本来執事というものは、主人の居ないアパルタメントの管理をするのが役目なのだが、パブロはAbelと共に時々航海に出ているのだった。

「しかしカリブか・・・・パブロさんは執事と言うより副官だな・・・」

ラドリックは苦笑しながら封筒の中から手紙を取り出し目を通した。そして一通り目を通すと、手紙を机に置いた。

「パブロ提督はなんて言ってきたんですか?」

「昔パブロさんの指揮下に居た軍人がイスパニア海軍を辞めたらしい。腕は保障するので俺の船で雇ってくれないかと言ってきてる。この手紙が届く頃にはこっちに着くだろうから、試してみてくれ、ということだ」

エドの問いかけにそうラドリックは答えた。

「なるほど・・・・パブロ提督のお墨付きなら腕の立つ野郎なんでしょうね」

「ああ、イスパニア海軍の中でもカリブ方面で私掠艦隊に所属していたらしい」

「ほう・・・・それは頼もしいじゃないですか、そいつが来ればあっしもディックも楽ができるってもんでさ。それにロイのやつの希望にも・・・」

「ああ・・・・・それはそうなんだが・・・」

「どうしたんです坊ちゃん?なにか不都合でもあるんですかい?」

いつになく乗り気でないラドリックの態度に不審を覚えたエドが問いかける。その問いかけにラドリックは頭を掻きながら答えた。

「それがな・・・・・その軍人というのが・・・・女性らしいんだ・・・・」

「お・・・おんなぁ!?」

エドの驚きの声が室内にこだました・・・・



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posted by ラドリック at 21:48| Comment(2) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月28日

謹賀新年(遅

遅ればせながらあけましておめでとうございます。ラドリックの中の人です。

昨年はこのブログをご愛読いただきまことにありがとうございました。と言っても9月の更新から4ヶ月以上更新していないわけで・・・・楽しみに待ってくださっている読者の方には(いるのか?)大変ご迷惑をおかけしております(汗


年末にはこのブログに美麗なイラストを書いてくださっている商会員のManonさんの発行されるDOL本にラドリックたちの物語とは違った話を寄稿させていただきましたが、それ以外はまったく書けていない状態が続いております。DOL自体もリアルの事情でIN率が低下している状態です。


とりあえず、リアルの事情が今月一杯で一区切りつきそうですので、来月以降は少しずつですが更新の方を再開していきたいと思いますので、今年もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
posted by ラドリック at 22:49| Comment(3) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月24日

老兵は死なず §後編§

§1§



イスパニアの領土であるパルマの出航所に、三隻の帆船が停泊していた。船型はキャラックだろうか・・・遠目からでは分からないが、その船体には無数の傷が刻まれていた。

「・・・・この船と共に戦って何年になるかの・・・・それも今日で終わる・・・・か」


三隻あるキャラックの中でも一番古い船の甲板で、その男は呟いた。男はその船の船長だろうか、くたびれたパイレーツコートに身を包み、船体に刻まれた傷を指で撫でた。

「艦長、全艦出撃準備整いました」

副長らしい男が敬礼をして報告する。男はその報告に頷くと、甲板上に並ぶ船員達に向き直った。

「諸君、我が部隊はこれよりアルジェ沖に停泊しているバルバリア海賊の主力の一部を叩く為に出撃する。諸君等も知っている通り、我が部隊と敵の戦力差ははっきりしており、敵艦隊に打撃を与えるどころか生還もおぼつかんじゃろう・・・」

男は言葉を一旦区切ると、船員達を見渡した。どの船員の顔にも緊張が見て取れた。

「わしは軍上層部に疎まれた身だ、退役前のこの命をここで捨てても惜しくはない。しかし、諸君等はわしの様な老いぼれに付き合う事はない。希望者は退艦を許可するので前に出てくれ。なに、心配は要らん。疎まれているのはわしだけじゃから、諸君等が艦を降りても罪に問われないように、わしから上層部に具申しておくから、安心して名乗り出てくれ」

そう言うと、男は再び船員達を見渡した。船員達の顔はどれも緊張していたが、退艦を名乗り出る者は一人も居なかった。

「パブロ・アルベニス艦長、我ら全員、最後まで艦長のお供をする所存です。二番艦、三番艦の艦長からも、同様の返答が来ております」

船員達の思いを代表して、パブロの横に控えていた副長が言った。

「・・・・・・どいつもこいつも大馬鹿者じゃな・・・」

そう呟くパブロの頬に熱い物が流れる・・・

「諸君等の気持ちはわかった。諸君等の命・・・・わしが預かる!総員配置につけ!」

パブロの号令に船員達は歓声を上げると、敬礼を返して持ち場に散った・・・・




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2007年09月16日

老兵は死なず §前編§

§1§



「すいません、この造船所にホセと言う人はいらっしゃいますか?」

「ホセは俺だが?」

造船所の喧騒の中に聞こえた控えめなその声に、一人の船大工が作業の手を止めた。その男は造船所の親方らしく、赤銅色に焼けた顔を声の方に向ける・・・年の頃は50前後だろうか、その顔には深い皺が刻まれていた。

「貴方がホセさんですか?私はAbelと申します」

ホセの前に現れた男はそう名乗ると頭を下げた。その男は長い髪を無造作に垂らし、質素な修道衣を身に纏っている。そして、その胸には鈍く光るロザリオがかけられていた。

「・・・・俺には神父の知り合いはいないんだが・・・・」

ホセは戸惑いながらそう言った。その目には不審の色が浮かぶ。

「もちろん私とホセさんは知り合いではありません。ホセさんは海事ギルドに依頼を出しませんでしたか?」

「ああ、確かに依頼を出したが・・・もしかしてあんたが?」

「ええ、海事ギルドの方で依頼を受けましたので、依頼人であるホセさんに詳しい話をお聞きする為に来させていただきました」

「・・・・・あんたがねぇ・・・・もう一回確認するが、海事ギルドから来たんだよな?」

「ええ、そうです。まあ、ホセさんが訝しがるのもよくわかりますけど」

ホセがそう言うと、Abelはにっこりと笑った。

「もしお時間があれば、依頼の件についてお話をお聞きしたいのですが・・・・」

「ああ、それじゃあ酒場で待っていてくれ。すぐにあとを追うから」

「わかりました。それではまたあとで」

ホセの言葉にAbelは頷くと、ホセに頭を下げて酒場に向かって歩き出した・・・



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2007年09月04日

花酔いの石(後編)

§1§



「ああ、ラウルさんが言ってた件ですよねー?」

ワイラはそう言うと、ラドリック達に向き直った。ポルトベロを出航したラドリック達は、ラウルが情報収集を依頼したワイラに結果を聞く為にサントドミンゴに来ていた。

「ここに来る色んなお客さんに聞いてみたんですけど、やっぱり皆さん聞いたことがないって言うんですよー」

ワイラはラドリックにそう言うと、とてもすまなそうな顔をした。

「そうですか・・・・やはりカリブには存在しないのか・・・」

ラドリックはそう呟くと、何かを考えるように俯いた。

「ワイラさん、どんなことでもいいの、何か関係あるような事を聞いてない?」

考え込むラドリックを押しのけるように前に出たソフィアが言う。

「そうですねー・・・あ、その石については何もわからなかったんですけど、ラウルさんが見たお花については面白い事を聞きましたよー」

「面白い事?」

「ええ、イングランド商船隊の船長さんに聞いたんですけど、そのお花は太陽の下だと青く光るんですって」

「青く光る・・・・?」

「はい、桃色と青が混ざって、凄くきれいなんだそうですよー?ロンドンの女性はみんな知ってるって言ってましたけど・・・ソフィアさん知らないんですかー?」

「ああ、ソフィアは女性と言っても」

「お兄ちゃん、黙ってて!」

「う・・・・」

ソフィアはラドリックを一喝して黙らせると、考え込んだ。

「桃色の花・・・青く光る・・・まさか!」

「何かわかったのかソフィア!」

「もしかしたら答えはすぐ近くにあるかもしれないわ・・・お兄ちゃん!すぐに出航しましょう!」

「出航って・・・どこに行くんだ?」

ソフィアの意図がわからず戸惑っているラドリックを引っ張るように出航所に向かおうとするソフィアにラドリックが問いかける。

「行き先は・・・私達の生まれ育ったロンドンよ!」

ソフィアはそう言うとワイラに頭を下げ、ラドリックを引きずるように、出航所に向かった・・・



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2007年08月24日

花酔いの石(前編)

(注意:今回はネタバレを含んでいます)


§1§


「ふう・・・今帰ったぞ」

タラップを上がってきたラドリックがそう言うと、水夫達に指示を与えていたエドがラドリックの方を向いた。

「お早いお帰りですね船長」

「ああ、ここには用事もあまり無いしな・・・酒場に行くのも癪だし・・・」

エドの問いかけにラドリックは答えながら眼下に広がるエメラルドグリーンの海を見た。チュニスを出航したラドリック達は、一路カリブの開拓地グランドケイマンを目指し、開拓地に物資を納入したあと、グランドケイマンの南西にあるポルトベロに寄港していた。

「船長、お帰りなさい」

その声にラドリックが振り向くと、そこにはチャドリに身を包んだサラの姿があった。サラは手にした書類をラドリックに手渡した。

「物資の搬入は大方終了しました。いつでもヨーロッパに戻れます」

「ありがとうございますサラさん。しかし・・・・・」

「なんでしょう?」

「いや・・・暑くないですか?」

ラドリックはシャツの胸元に風を送り込みながら言った。

「ああ、私はいつも砂漠の中で生活していましたから。確かにこちらの暑さは砂漠の比ではないとは思いますけど・・・」

サラはそう言うと小首を傾げた。

「そうですか・・・・そういえば、ソフィアは何をしてるんですか?サラさん一人に仕事を押し付けて・・・困った奴だ」

「え?船長はソフィアさんと会ってないんですか?」

「ええ、会っていませんが・・・?」

ラドリックの言葉にサラは不思議そうな顔をする。

「じゃあすれ違いになったのでしょうか・・・?」

「何かあったんですか?」

「いえ、先ほど船にこの街の冒険者ギルドの方が訪ねて来られまして、ソフィアさんがその方の伝言を船長に伝える為に酒場に船長を探しに・・・」

「何だって!!」

サラの言葉にラドリックが大声を上げる。びっくりするサラの両肩をつかんだラドリックは、サラを揺さぶった。

「ソフィアがこの街の酒場に行ったと言うんですか!?」

「え・ええ・・・・」

サラの返事を聞くと、ラドリックは慌ててタラップを降りていった。その姿を呆然と見送るサラ・・・・

「あの・・・・エドさん・・・・」

「なんです?」

「私・・・・何か大変な事を言ったんでしょうか・・・?」

「いやいや、サラさんは何も悪くないですぜ。ただ、この酒場には色々ありましてね」

不安げな表情で問いかけるサラにエドは笑って見せるとそう言った。

「色々・・・・ですか」

エドの言葉にサラは小首を傾げる。

「そうです、ちなみに・・・・」

「ちなみに・・・?」

「サラさんは「世の中には自分にそっくりな人間が三人はいる」って話を信じやすか?」

エドはサラにそう言うと、豪快に笑った・・・・



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