2011年06月01日

因縁の結末 §後編§

§1§



「あれから何日が経ったかな・・・・」

ディックは薄暗い部屋の天井を見ながらそう呟いた。アルはあの日以来顔を見せて居なかった。この部屋に来る者といえば日に一度、水夫が食事を持ってくるだけだった。

「どうせ殺すなら飯なんか持って来なけりゃいいのに・・・なまじっか食うと、後で腹が減るじゃねぇか・・・」

ディックはそう言うと頭を振った。頭の中で交錯する色々な思いを振り切るように。

「いくら船長が御人好しでも来るわけがねぇ・・・もう俺はお払い箱なんだからな・・・・・」

何故こうなったのか?パズルのピースが1つ合わないような不快感。だが、それは誰のせいでもない。それはディックが一番よくわかっていた。原因は誰でもない、自分にあったのだから・・・・

そのディックの思考を止めたのは扉の開く音だった。ディックが扉の方を見ると、二人の男が入ってくる所だった。一人はいつも食事を持ってくる水夫、そしてもう一人は・・・・

「おい、何黙りこくってるんだ?こんな所に閉じ込められて気が変になったか?」

「けっ!そう簡単に気が変になるかよ!さっさと飯を置いて行っちまえ!」

そう言う男の後ろで口元で指を立てて見せる男・・・ギムを見ながらディックはそう言った。

「言われなくてもそのつもりだぜ、何が楽しくてこんな臭い部屋に長居するかよ!おい、フレッド!あとは頼むぞ!」

「はい、ハサンさん」

フレッドと呼ばれたギムはハサンに答えると、食事の置かれたトレイを持って部屋の中に入った。それと入れ替わりにハサンが部屋を出て行く。

「フレッド、それが終わったら今度は甲板の掃除だ、新入りには仕事が山ほどあるんだからな!」

「わかりましたハサンさん」

ギムの答えに満足したのか、ハサンは階段を上って行った。そして、それを確認したギムは扉を閉めると、ディックに駆け寄った。

「甲板長・・・大丈夫ですか?」

「ああ・・・なんとかな・・・でも何であんたがここに?」

「それは・・・ラドリック様の指示です」

ディックの問いかけにギムはそう答えると、ディックの両手首に、持っていた膏薬を塗りつけた。鉄鎖で両手を拘束されているディックの手首には無数の擦り傷ができていたからだ。

「船長の?まさか船長はアルの呼び出しに応じたって言うのか!」

「甲板長、大声を出さないでください」

「す・すまねぇ・・・」

ギムは膏薬を塗り終わると、ディックに向き直った。

「甲板長・・・明後日の午後、ラドリック様はBlue galeでこの船に来ます。表向きはアルの呼び出しに応じたという事でです」

「Blue galeで・・・?あの船は小型船だぞ!?なんでBand of lightで来ないんだ?みすみすやられに来るようなものじゃないか!」

「だから大声を出さないでください甲板長。アルは前もって小型船で来るように指示してきたんです。それをBand of lightのような大型船で来れば、アルは逃げ出すに決まっています・・・・だから、私が先にこの船に来たんです」

ギムはそう言うと、言葉を続けた。

「明後日の午後、ラドリック様がアルと交渉をしている隙に私が甲板長を助けに来ます。甲板長はそれまで辛抱してください・・・いいですね?」

「・・・・わかった」

ディックはギムの言葉に頷いた。

「しかし・・・・俺を助け出したってどうやって逃げるつもりだ?俺と船長とあんたが居るとはいえ、相手は100人近く居るんだぞ?」

「もちろん近くに副長の指揮でBand of lightが商船に擬装して待機しています。それに、Blue galeの方には斬り込み隊から精鋭を選りすぐって副甲板長とロイが率いてます」

「副甲板長・・・」

ギムのその言葉にディックの表情が変わる。その変化を察したのか、ギムは静かに言葉を続けた。

「甲板長、貴方の気持ちはわかりますが、ラドリック様の船の甲板長は貴方しか居ません。恐らくラドリック様も同じ気持ちだと思います。ニーナ副甲板長は私の目から見ても優秀な航海士です。だが、ラドリック様の船の甲板長は貴方です。ロイもそれはわかっているはずです。甲板長・・・貴方もわかっているんでしょう?」

「・・・・・」

「副甲板長が優秀だと思ったから、ロイは安心して他の道へ進めるんです。これは決して貴方の元を去るということではないと思うのですが・・・・」

しばしの静寂・・・・

「私としたことが少し喋り過ぎたようです」

ギムはそう言うと、扉を開けた。

「甲板長、明後日もう一度来ます」

ギムはそう言うと、ディックの返事を待たずに部屋を出て行った・・・




§2§



「よく来たなラドリック・ガーランド!」


アルは自分の前に立つラドリックにそう言うとニヤリと笑った。ギムがディックと再会してから二日後、ラドリックはあるの指定した通り、小型船であるBlue galeで、アルの船の待つコペンハーゲンのあるシェラン島の沖に来たのである。


「確かアル・セヴァスとか言ったな、ディックはどこにいる!」

ラドリックはそう言うと、アルを睨み付けた。Blue galeからアルの指揮するガレーに乗り込んだラドリック達は、アルの部下達に囲まれながらアルと対していた。

「英国紳士たるラドリック卿に覚えて居てもらえるとは身に余る光栄」

アルはそう言いながら軽く会釈して見せた。しかし、体を起こすと、その顔に酷薄そうな笑みを浮かべる。

「だがな、英国の坊ちゃん。口の利き方には気をつけろよ?お前の大事な甲板長の命は俺が握ってるんだからな!おい!ハサン!」

アルが後ろに声をかけると、後ろにある階段から二人の男がディックを挟んで連れてきた。

「ディック!無事か!」

「船長!何で来たんです!」

「何でだと?俺は仲間を救いに来ただけだ。ディック、お前は俺の船の大切な甲板長なんだからな!」

「船長・・・・」

言葉を交わす二人の視線が交差する・・・それを遮ったのはアルの笑い声だった。

「ハッハッハ!美しい船長と部下の垣根を越えた友情か、笑わせる!」

アルはそう言うと、腰のカトラスを抜いた。

「お前達、今の状況を理解しているか?もし、理解しているのならとんだ甘ちゃんだな!」

「なんだと!?」

「俺がお前達を生きて返すと思っていたのか?お前達はこのままここで魚の餌になるんだよ!」

「待て!それでは約束が違う!」

「約束だと?ほんとに甘ちゃんだなこのお坊ちゃんは!海賊がまともに約束を守ると思っていたのか?」

アルの言葉に無言で俯くラドリック・・・・・・しかし、再び顔を上げたその表情には笑みが浮かんでいた。

「そうか、予想はしていたが・・・ハイレディンの影武者を務めたアル・セヴァスともあろう者が落ちる所まで落ちたな!」

「なんだと!?」

ラドリックの言葉に激昂するアル。そのアルを正面に見据え、ラドリックは腰の剣を抜き放ち、アルの後ろに居るディックに叫んだ。

「ギム!ディック!もういいぞ!」

ラドリックの叫びにアルが後ろを振り向くと、そこには手にカトラスを持ったディックが一人の水夫・・・そう、ギムと一緒に立っていた。ディックを連れてきたもう一人の水夫であるハサンは、既に甲板に崩れ落ちていた。

「ちっ・・・・やるじゃねぇか英国の坊ちゃん。まさか新しく雇った水夫に手下を仕込むとはな・・・・だが、このガレーには100人からの荒くれが乗っているんだ、例えお前達が全員でかかってきたとしても数は10人にも満たないはずだ、無駄なあがきなんだよ・・・おい、野郎ども!!」

アルの声に呼応するように、周囲の海賊達が囲みの輪を狭めていく・・・・しかし、僅かな静寂は砲声によって破られた。

「親分!9時の方向から砲撃!シェランの島影から大型ガレオン級の帆船が出てきます!」

島影から出てきた帆船・・・Band of lightは、直撃を避けるように牽制砲撃をかけながら、こちらに迫ってくる。

「てめぇ!謀りやがったな!」

近づいてくるBand of lightを見ながらアルは叫ぶ。ラドリックは周囲を牽制しながらアルと距離を取った。

「騙したのはお互い様だ、これで数の上でも逆転だが・・・まだ抵抗するか?」

ラドリックの言葉にアルは甲板に唾を吐くと、カトラスを構えた。

「フッ・・・・やれるもんならやってみろ、野郎ども!あの帆船が接舷してくる前にこいつらを血祭りに上げてやれ!!」

そして、双方の雄叫びと共に、戦いは始まった・・・・





§3§





「お前さえ・・・お前さえ居なければ!!」

アルの憎悪のこもった斬撃がディックを襲う。ディックはそれをカトラスで受け止めた。

「お前達があの時バルタザールの援軍に来なければ、俺はあのままハイレディンの影武者を続けられてたってのに!!」

開始直後は海賊側が数で押していたものの、ラドリック、ニーナを中心とする斬り込み隊やBand of lightからの砲撃により、海賊達は戦意を喪失しつつあった。そして・・・・ディックはアルと対峙していた。

「アルさんよ・・・あんたの立場には同情するが、運が良かったとはいえ、あの時勝ったのは俺だ。そして、負けた以上この海では言い訳はきかねぇ・・・それが海の漢ってもんじゃねぇのか!」

そう言いながらディックはアルの剣を押し返した。

「うるさい!俺は・・・・俺は・・・・お前を倒さないと一歩も進めないんだよディック・ウォレン!!」

そう叫びながらアルは矢継ぎ早に斬撃を繰り出す。その瞳には狂気が宿っていた。

「シラクサ沖でもナッソーでも・・・・俺はお前達に煮え湯を飲まされた。だから・・・だからこそお前達を倒さないと俺には明日が来ないんだよ!」

アルはそう叫ぶと、再び斬撃を繰り出した。ディックもそれに合わせる様に斬撃を繰り出す。

「くっ・・・・!」

甲高い音と共にディックの手からカトラスが離れた。たまらず膝をつくディック。

「心配するな、お前を殺したあとにあの英国のぼっちゃんもお前の所に送ってやる・・・死ね!ディック・ウォレン!」

アルが渾身のの一撃を見舞おうとカトラスを大きく振りかぶる。ディックはその剣を受け止めようと素手のままで立ち上がろうとした。

「甲板長!これを使いな!!」

その瞬間、アルとディックの間に一筋の光が煌いた。その光はまるで狙ったようにディックの手に収まった。そして・・・・二人の男はお互いの身体をぶつけ合うように交差した。


「ば・・・・馬鹿な・・・・・」

アルの剣は確実にディックの肩を斬っていた。しかし・・・・ディックの手に握られた光・・・その短剣は、アルの心臓へと叩き込まれていた。

「悪かったな・・・アル・セヴァス、今回も俺の方が運が良かったみたいだぜ・・・・恨むなよ・・・・」

ディックはそう呟くと、短剣をより深く突き入れた。アルの口から鮮血が滴り、ディックの身体を真紅に染める。

「また勝てなかった・・・か・・・ディック・ウォレン・・・・先に地獄で待っているぞ・・・次はあっちで・・・・」

「ああ・・・・先にあっちで待ってろ、俺も遅かれ早かれ地獄行きだ。次は地獄で決着をつけようぜ、アル・セヴァス」

その言葉にアルは引き攣ったような笑いを浮かべると、ディックにもたれかかるようにして事切れた。ディックはアルの遺体を静かに甲板へ置いた。

「何とか勝ったみたいだね、甲板長」

ディックがその声のする方を見ると、そこにはカトラスを肩に担いだニーナの姿があった。その身体には無数の返り血を浴びており、戦いが激戦であった事を示していた。

「・・・・・何故俺を助けた」

「何故だって?私は副甲板長だよ?甲板長を助けるのは当たり前じゃないか」

ディックの問いかけにニーナは答えた。

「だが俺が居なければ、お前がBand of lightの甲板長じゃないか。それなのに何故・・・」

「いいかい甲板長、私は剣技であんたに負けるつもりは毛頭無い。だがね、ラドリック船長はあんたを甲板長に選んだんだ。それに・・・・あの船長はあんたを助けに行くのに私に頭を下げたんだよ?『俺の大事な戦友であり、甲板長であるディックを助ける為に手伝って欲しい』ってね・・・船長にそこまでされて手伝わない奴が何処に居るんだい」

「船長が・・・・・そう言ったのか・・・・俺の事を戦友だと」

「ああ、そうさ。だから私は副甲板長って訳さ。これからも頼むよ、甲板長!」

ニーナはそう言うと、ディックに手を差し伸べた。

「ああ・・・・よろしく頼む・・・・副甲板長・・・・」

ディックはそう呟くと、ニーナの手を取って立ち上がった。周りを見渡すと、戦場の怒号も静かになりつつあった・・・・・・




§4§




「また・・・この船に戻ってこれるとはな・・・・・」

数日後、休養を取ったラドリック達は、コペンハーゲンを出港し、一路地中海を目指していた。同じ商会の仲間であるJulianが、ラドリックに助けを求めて来たからだった。ディックはBand of lightの舷側に立って、遠くなるシェランの島影を眺めていた。

「アル・セヴァス・・・・」

ディックは自分が殺した不幸な海賊の名を呟きながら、肩の傷を撫でた。幸いな事に二週間もすれば傷は完治するという船医のカークの見立てだった。

「甲板長、何一人で黄昏てんだい」

その声にディックが後ろを振り向くと、ニーナが立っていた。

「いや・・・なんでもねぇ・・・・」

「なんでもないだって?ぼーっと海を眺めてさ」

「・・・・なぁ・・・お前は因縁って奴を信じるか?」

「はぁ?」

ディックの言葉にニーナは大げさに驚いて見せた。

「因縁だって?あんたが倒したあの海賊の親玉の事かい?船長から話は聞いたけど、人間なんてもんはみんなどこかで繋がってんだよ。あんたも私もいままで沢山の人間の命を奪ってるんだ、それにいちいち考えてたら身が持たないよ?」

「ああ・・・・そうだな。だが、アル・セヴァスは俺や船長に出会った事で運命が狂ったと言い続けて死んでいった・・・俺がもしあの時アルに出会ってなければ、お互い嫌な因縁に付きまとわれる事がなかったのかと・・・思ってな」

ディックの言葉にニーナは頭を掻きながら言葉を続けた。

「まあ、あんたがどう思うかはあんたの勝手だ。だがね、あんたはこのBand of lightの甲板長なんだ。この船の斬り込み隊奴等の命を預かってるのはあんたなんだよ?考えることは悪い事じゃないけどしっかりおしよ」

ニーナはそう言うと、ディックの肩を叩いた。

「まあ・・・・もし、あんたがこの家業に愛想が尽きたって言うんなら、私が甲板長になってやってもいいけどね」

「はぁ?誰が愛想が尽きたって?この船の甲板長はこのディック・ウォレンだ。俺が生きてる限りは誰にも甲板長の座はわたさねぇ・・・って、お前まだ甲板長の座を狙ってやがるのか!?」

ディックの言葉にニーナは不敵な笑みを浮かべた。

「当たり前さね。今はラドリック船長はあんたの事を甲板長と認めているけど、そのうち私の実力をわかって私を甲板長にって思うはずさ!その時はあんたを使ってあげるよ、「副甲板長」としてね!」

「なんだと!おいニーナ、剣を抜け!誰がここの甲板長にふさわしいか教えてやる!」

「望む所さ!」

そう言うと、二人は剣の柄に手をかけながら向かい合う・・・・


「・・・・・・ありゃ、俗に言う犬猿の仲ってやつですかねぇ・・・船長」

「どうだろうな、結構いいコンビじゃないか?」

少し離れた所で二人の姿を見ながらラドリックとエドは言葉を交わす。

「船長もおやっさんものんきな事を言わずに止めてくださいよ!」

険悪になりつつある二人を見ながら、ロイはエドに取りすがった。

「ロイ、心配はいらねぇよ。あれはスキンシップって奴さ。ちょいと荒っぽいがな」

「おやっさん、何言ってるんですか!剣を抜いてのスキンシップなんてあるわけないでしょ!」

エドに頼んでも無駄と思ったのか、今度はラドリックに取りすがった。

「船長!この船は私闘は厳禁ですよね?止めてくださいよ!」

「ああ、そうだったな・・・私闘は禁止だった」

ロイの言葉に頷くラドリック。

「じゃあ!」

「エド、暇をしている船員を全員甲板に呼んで来い。それと」

ラドリックは被っていたバイコルヌを脱ぐと逆さにし、その中に銀貨を一枚入れた。

「俺はディックに銀貨一枚だ。長い航海の退屈しのぎにいいだろう、お前が胴元をやってみんなを楽しませてやれ」

「なるほど、了解でさ」

ラドリックの言葉にエドは頷くと、ラドリックと目線を合わせてニヤリと笑った。

「せんちょうぉぉ〜」

Band of lightの甲板に、ロイの嘆きがこだまする・・・・Band of lightは一路地中海へと帆を張った・・・・・


posted by ラドリック at 23:30| Comment(3) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まさか続きが読める日が来るとは(笑)

次回アップは今週末ぐらいですか?
Posted by ケイロン at 2011年06月09日 00:48
>ケイロンさん

お久しぶりです。約二年半ぶりの更新となります。リアルの都合やモチベの低下で放置になっていました、申し訳ありません。

これからは無理をしないように細々と更新していくつもりです。ちなみに今週末は商会イベントなので更新はありませんw
Posted by ラドリック(管理人) at 2011年06月10日 15:49
足跡ぺたぺた
最近みないのう
Posted by ししとら at 2014年01月15日 00:34
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