2006年09月03日

忘れられた先駆者(DOL百物語 第四話)

§1§



「これは・・・・・酷いな・・・・」

ラドリックは辺りを見回すとそう呟いた。オスマン艦隊を撃破し、リラダン団長に別れを告げたラドリック達は、一路サントドミンゴを目指していた。そしてその航行中に「それ」を見つけたのだった。


ラドリック達が見つけた「それ」・・・・・それは、漂流している一隻の帆船だった。帆は破れ、索は切れ、船体には砲弾がめり込んだであろう穴が無数に開いていた。しかし、沈むまでには至らないようで、海流に流されているのだろう、少しずつ動いていた。ラドリック達は、その漂流船に船を近づけているのだった。

「一体何処の船でしょうねぇ・・・・・・」

ラドリックの横で、船を眺めていたディックが不思議そうに言った。

「こりゃかなり昔の船だな・・・・わしが若い時に作られた船じゃないか?」

ディックの言葉に工房長のモーガンが答えた。

「船の形は今で言うキャラック系だが、各所の作り方が今風じゃない・・・・それにあそこを見てみろ」

そう言うと、モーガンは船体の一部を指差した。そこには、喫水線よりかなり上であるにもかかわらず、海草がびっしりと巻きついていた。

「いくら漂流船だからといって、あの海草のつき方は異常だぞ?それに、あれだけの穴が開いてれば、キール(竜骨)にも影響があるはずだ、浮いてるのが不思議なぐらいだが・・・・・」

そう言いながら考え込んでいるモーガンを尻目に、ラドリックは横に来たエドに言葉をかけた。

「とりあえず、乗り込んでみよう。万が一にも生存者が居れば救助しなければならない」

「ですが船長・・・・流石に生存者は居ないと思いますがねぇ・・・・・」

ラドリックの言葉にエドは船を一瞥してそう言った。

「恐らくそうだろうが・・・・・もし、乗っていた人間の手がかりになるようなものでもあれば、遺族に持って帰るのが航海者の道ってものじゃないか?」

「・・・・・わかりやした、ではあっしとディックを中心に乗り込む奴を編成しましょう」

「ああ、頼む。準備ができたら教えてくれ」

エドの言葉にラドリックは頷くと、船長室へと歩を進めた。



§2§



「何でお前がついて来るんだソフィア!」

ラドリックは後ろを振り向くと、あとからついてこようとするソフィアに叫んだ。

「だって・・・・私も行ってみたいんだもの・・・・・」

「どんな危険があるかわからないんだぞ?そんな所にお前を連れて行けるか!」

「危険なのはわかってるわ!でも・・・・・どうしても行きたいの・・・行かなくちゃいけない気がするの・・・・・」

「ソフィア・・・・・・」

ソフィアの真摯な眼差しに、ラドリックは次の言葉が出なかった。

「船長、ソフィア嬢ちゃんはあっしやディック達で守りますから、嬢ちゃんも連れてってもらえませんかね?嬢ちゃんが一度言い出したら聞かない性格ってのは知ってるでしょ?」

「・・・・・わかった、その代わり、エド達の周りを離れるんじゃ無いぞ」

エドの言葉にラドリックはそう言うと、ソフィアの返事を待たずに、先行しているギムやミハイルと共に、漂流船に乗り込んでいった。

「エド・・・・お兄ちゃん怒ってたよね?」

ソフィアは、エドと一緒に漂流船とBand of lightに渡された板の上を歩きながら、不安そうにエドの方を見た。

「ぼっちゃんは、ソフィア嬢ちゃんを危ない目に合わせたくないんでさ、それはわかってあげた方がいいですぜ?」

エドはソフィアにそう言うと、言葉を続けた。

「しかし、なんで船に乗り込もうなんて思ったんです?」

「言葉じゃうまく言えないんだけど・・・・・」

エドの言葉にソフィアは小首をかしげる。

「誰かが・・・・呼んでる気がするの・・・・・私を」

「嬢ちゃん・・・・いくら漂流船だからって怪談話はごめんですぜ?あっしはその手の話が苦手なんですから」

エドはそう言うと、大げさに身体を揺すって見せた。ソフィアの言葉をただの理由付けだと思ったのだろう。

「ほんとなんだけどな・・・・・・・」

前を歩くエドの背中を見ながら、ソフィアはそっと呟いた・・・・



§3§



「しかし・・・・これはむごいな・・・・」

甲板に降り立ったラドリック達は、手分けをして船内を探索していた。甲板には無数のどす黒く変色した血痕があり、船員の物であろう折れたカトラスやジャック・ブーツ、白骨等も多数見られた。中にはマストに逆さ吊りにされた白骨もあり、この船がどのような最後を遂げたかがありありと見て取れた。

「どうやら、大昔に海賊に襲われた船が海流に乗って漂流していたようですな」

ラドリックの横に立つミハイルがラドリックに言った。

「船体にこの船の名前が彫ってありました。この船は「The new earth」・・・・英語で書いてありましたので、イングランド船籍の船のようです」

「The new earth・・・・・聞いた事があるような気がするが・・・・エド、何か覚えていないか?」

「・・・・・・・・・」

ラドリックの言葉に考え込むエド・・・・

「The new earth・・・・・・ああ、あの船か」

「知っているのか!?」

「ええ、昔先代から聞いたことがあります。まだ、イスパニアのクリストバル・コロン提督がインディアス・・・・カリブの事ですな、を発見する前に、イングランドから新天地を求めて出航した船があったと・・・・それが確か・・・・The new earth・・・・」

エドの話は続いた。今から何十年も前・・・当時航海後進国であったイングランドは、新大陸を発見すべく(この場合の新大陸とは、カリブ海ではなく、10世紀から11世紀にかけて活躍したアイスランド生まれのノルマン人航海者レイフ・エリクソンが見つけたという、ヴィンランド(現在の北米)の事)時の国王ヘンリー7世が自ら指揮を取って、ヴィンランドを探すべく、ロンドンから調査艦隊を出航させた。しかし、何年待ってもその艦隊は帰ってこず、ヘンリー7世を失望させた。しかし、ヘンリー7世はイングランドに帰化した航海者、カボット親子を起用し、見事ハドソン湾、ハドソン海峡などを発見したのだった。そして・・・・その、帰還しなかった最初の艦隊の旗艦の名前が「The new earth」だと言うのだ。


「という事は・・・・この船は帰ってこなかった調査艦隊の旗艦・・・・」

そう、ラドリックが呟いたその時、辺りは霧に包まれた・・・・・



§4§





「何だこれは!」

突如として現れた霧にラドリック達は狼狽した。ただの霧ではない、薄紫色に発光している不気味な霧・・・・・・

「ディック!Band of lightの奴らを呼べ!」

エドの命令にディックが合図の空砲を放つが、Band of lightから斬り込み隊は乗り込んでこなかった。

「・・・・・どうなってやがるんだ・・・・・あ・・・・せ、船長!」

苛立っていたディックが、ラドリックの方を指差して固まった。指が震えている・・・・・ラドリックが後ろを振り向くと、そこには数人の人影があった。いや・・・・人と呼ぶのは間違いかもしれない・・・・・その人影は霧と同じく薄紫色に光り、その落ち窪んだ眼窩には命の灯火は灯されていない。着ている服はボロボロに裂け、手にした剣やカトラスには血の色の錆が付いていた・・・・・

「これは・・・・・亡霊・・・・!!」

ラドリックは素早く剣を構えると、後ろのディック達に激を飛ばした。

「ディック!迎撃の用意をしろ!エドはソフィアを守ってくれ!」

「ですが船長、相手は亡霊ですぜ・・・斬っても死ぬかどうか・・・・」

考えられない光景に怖気づいたのか、ディックはいつもなら絶対に吐かないような弱音を吐いた。

「例え剣が効かなくても、この船から逃げる為には戦わなければならんだろうが!しっかりしろディック!」

「へ、へい!」

ラドリックの言葉に勇気付けられたのか、ディックは連れてきた斬り込み隊の連中を叱咤し、ラドリックの横に並ぶ。しかし、その時・・・・船長らしい、ボロボロになったジュストコールを来た亡霊が、その歯を鳴らしながら言葉を発した。


「オノレ・・・・マダ我々ヲ許サナイト言ウノカ・・・・・オ前タチノ呪イヲ受ケテ、我々ハ生キル事モ死ヌ事モ出来ズニ洋上ヲ彷徨ッテイルトイウノニ!」

「違う!我々は貴方達を痛めつけるためにこの船に乗り込んできたのではない!」

「ナラバ・・・・・ナラバ、何ガ目的ダ。ヨク見レバ、原住民タチと違ウ服装ダガ・・・・・?」

「私の名前はラドリック・ガーランド。イングランドの軍人です」

「オオ!」

ラドリックの言葉に船長らしきその亡霊は、驚きの声を上げた。

「ナラバ・・・ヘンリー7世陛下ヲ知ッテオルカ」

「ええ・・・・もうお亡くなりになられましたが知っています。貴方は・・・・ヴィンランド調査艦隊の提督でいらっしゃいますか?」

「ソウダ・・・・・・私ハヘンリー7世陛下ノ勅命ヲ受ケテ、艦隊ヲ率イテヴィンランドヲ目指しシタ。シカシ・・・・・途中デ嵐ニ巻キ込マレ、漂流シ、アル島ニタドリ着イタノダ」

その亡霊が言うには、たどり着いた島には原住民が居たらしく、船の修理や食料を分けてもらう為に交渉をしたが、原住民は拒否、そのうち、ある水夫が原住民を殺して食料を奪った為に原住民との間に争いが始まり、数で劣る調査艦隊側が負けたというのだ。

「ソシテ・・・原住民ハ我ラニ呪イヲカケタノダ・・・・生キル事モ死ヌ事モ出来ズ永遠ニ海ヲ彷徨ウ呪イヲ・・・・・」

「可哀想・・・・・・」

その話を聞いて、後ろに居たソフィアが呟いた。その目には大粒の涙が溜まっていた。

「オオ・・・・我ラノ為ニ泣イテクレルノカ・・・・・・アリガトウ・・・・」

「確かに・・・その水夫のやった事は人としてあるまじき行為です。しかし、あなた方も十分罪は償ったはずです・・・・・なんとか貴方達が天に召される方法はないのでしょうか」

ソフィアは恐怖を感じないのか、いつの間にかラドリックの前に出て、その亡霊と向かい合っていた。

「アリガトウ、オ嬢サン・・・・シカシ、罪ハ罪ダ・・・・オ嬢サン・・・・モシヨケレバ、私ノ願イを聞イテ貰エナイダロウカ?」

「・・・なんでしょう?」

「私ニモ貴方グライノ娘ガイタ・・・・デキルコトナラモウ一度会タカッタ・・・・・・シカシ、ソノ夢ハ叶ワナイ・・・・・ダカラ、オ嬢サン、貴方ガヨケレバ、私ノ事ヲ「オ父サン」ト、呼ンデクレナイダロウカ・・・・」

亡霊の眼窩は深い虚のように真っ黒だった。その眼窩からは涙は出ない・・・・しかし、ソフィアはその亡霊が泣いていると感じた。

「私でよろしければ・・・・・・・」

ソフィアは亡霊を見つめながら、一言「お父さん」と言った。ソフィアの目から涙が落ちる・・・・その涙が甲板に落ちて弾け瞬間、それまで辺りを蔽っていた紫色の光が無くなり、霧が少しずつ薄くなっていった。

「アタタカイ・・・・・コレハ・・・・太陽ノアタタカサカ・・・・」

亡霊は、顔を空に向けた。船を蔽っていた霧の隙間から光が差す・・・・その光に打たれながら、亡霊は静かに言葉を紡いだ。

「ドウヤラ呪イガトケタヨウダ・・・・コレデ我々モ休ム事ガデキル・・・・・」

その言葉にラドリック達が辺りを見回すと、提督の亡霊に付き従っていた亡霊たちが光に包まれていた。そして、光に包まれた亡霊たちは、その姿を留めず、光の中に消えていった。

「若キ航海者ヨ・・・・・」

ラドリックがその光景に呆然としていると、提督の亡霊が言葉をかけてきた。

「頼ミガアル・・・・聞イテ貰エルカ・・・・・」

「なんでしょう・・・・」

「我々ノ事ヲ忘レナイデクレ・・・・・恐ラク本国デハ、道半バデ連絡ノ途絶エタ我々ノ事ナド忘レテイルダロウ・・・・ダカラ頼ム・・・・オマエタチダケデモ、我々ノ事ヲ忘レナイデクレ・・・・・」

「ええ、忘れません・・・・我がイングランドの為に身命を賭して先駆けとなったThe new earthの事も・・・貴方達の事も・・・・」

ラドリックは力強く言った。その言葉に安心したのか、提督の亡霊は頷くと、空から注ぐ光の中に身を委ねた。

「アリガトウ・・・・・・・・デハサラバダ、若キ航海者ヨ・・・・ソシテ・・・・・我ガ娘ヨ・・・・・」

提督の亡霊はそう言い残すと、光の中に消えていった・・・・・・・



§5§


「沈んじゃったね・・・・・The new earth・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

提督の亡霊が消えた後、The new earthは呪いから開放されたのか、ゆっくりと沈みだした。ラドリック達は慌ててBand of lightに戻ったのだった。そしてThe new earthは、Band of lightの船員全員が見守る中、渦を作りながら海中に没した。

「可哀想な人達・・・・自分たちの事を誰にも知ってもらえなかったなんて・・・・」

The new earthの沈んだ海をみつめながらソフィアがそう呟く。そのソフィアの肩に手を置きながら、ラドリックは答えた。

「だが・・・今は俺が・・・・ソフィアが・・・・そして、この船のみんなが知っている。・・・・そうだろ、ソフィア?」

「うん・・・・そうだね・・・・」

ラドリックの問いかけにソフィアは答えると、踵を返して、船室の方に走っていく。

「お兄ちゃん!早くサントドミンゴに行こうよ!私、カリブのお料理が早く食べたいよ!」

「やれやれ・・・・・」

ラドリックはそう呟くと、手を振るソフィアの方に歩いていった・・・・・
posted by ラドリック at 22:00| Comment(12) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おお、期待通りのクオリティの高さで、しかも回してからすぐに仕上げてくださってありがとうございます。
回した私が言うのも何ですが、この怪談バトンって、書きにくいですよねーww
快くお引き受け下さり、また、素晴らしいものを
書いてくださり、ありがとうございました。
……で、次の犠牲者は誰ですか?w
Posted by Julian at 2006年09月03日 23:07
それじゃあ貰っていこうかなw<次のバトン
いつ書けるか謎ですけど(ぇ
Posted by レヴィ at 2006年09月04日 00:33
>マストに逆さ吊り
描写が細やかなので船員たちに起こった悲劇を
想像してマジでぞわわ〜っと!怖いー><

ラド卿はいつもいい仕事しますなぁ。
Posted by Manon at 2006年09月04日 02:53
ラドさん、バトンありがとう〜♪
素敵すぎて魅入っちゃいましたw

Julianサンと共に尊敬です!マジで!
私とかぬさんなんてwwwwwネタ丸出しwww

本当にありがとうございましたーw
Posted by ハギレオーナ at 2006年09月04日 13:04
>Julian卿

気に入って頂けたようで良かったです。
怖いかどうかは別として、なるべくDOLの雰
囲気を壊さないようにするのが一苦労でした(汗
バトンは・・・誰に回しましょうかねぇ・・・
とりあえず、今度何かしてもらいますから(ぇ

>レヴィさん

ではレヴィさんにも受け取ってもらって・・・
・私が一人指名しようかなぁ・・・

>Manonさん

お褒め頂き光栄の至りです。
やっぱりマストに逆さ吊りは基本かなぁと・・
・w
完璧なホラーにすれば良いのでしょうが、苦手
でして・・・・(汗

>ハギレさん

いやいや、ハギレさんとブラザーがそっちの方
向に走ってるから、私の文章が良く見えるだけ
ですよw
難しいバトンをありがとうございましたw
Posted by ラドリック(管理人) at 2006年09月05日 21:09
 同じ幽霊船でも私が書くとコメディになるのはなぜなのかと……凹○
 ホラーっていうか、スリラー?な感じがすごくいいですね。
Posted by スーザ at 2006年09月07日 10:56
>スーザさん

スーザさんの場合はキャラが立っているので制
御不能になっているのだと(ry

やっぱりスリラーっぽいですか・・・自分でも
思ったんですが、どう見てもホラーじゃないん
ですよね(汗
Posted by ラドリック(管理人) at 2006年09月09日 20:16
うはwwwwちょっと目を離してる隙に・・
ブラザーったら!(最近のマイブーム)

ブラザーらしい直球勝負、お見事。
豪華絢爛、エロリックサーガ本編も期待しています!
Posted by かぬへるさん at 2006年09月12日 19:19
>ブラザー

流石に私には「もう!ラドリックさんったら!
」って感じなのは書けんのよ・・・・w

まあ、本編は気を長くして待っててくれw
Posted by ラドリック(管理人) at 2006年09月18日 21:09
こっそりお邪魔しますっ。
ゲーム内ではありがとうございました。
アマさんの所からこっそり飛ばせてもらってそぉっと読み読みしてました(*ノノ
今後ともどうぞよろしくお願いしますっ。
今度ラドリック人形の型とらせてくださいねっ。
Posted by 桃夏 at 2006年09月19日 03:16
>桃夏さん

いらっしゃいませ、こちらこそリンクを張って
いただきありがとうございました。こちらから
も張らせていただきますね〜^^

ちなみに・・・・型取りは石膏ではなく、蝋で
お願いします(ぇ
Posted by ラドリック at 2006年09月19日 23:14
先日はドレス&トークありがとうございました〜!
最近、フレの書くDOL小説にハマッていて
航海しながら、よく読んでたりします。

ラドさんのも、お気に入りに登録しといたので
お覚悟ーー!!wwwww

また海でも、宜しくおねがい致します!ヽ(゚∀゚)ノ
Posted by りぴ at 2006年12月01日 12:33
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