2007年02月04日

死闘 §前編§

§1§


「ラドリック!そんな事は認められないわ!」


ライザはそう言うと、正面に座っているラドリックに厳しい視線を向けた。

ロンドンで編成を済ませた迎撃艦隊は、セビリアから北上してくるキングリュー率いるイスパニア艦隊を迎撃すべく、ビスケー湾を南下していた。そして、迎撃作戦を立てるべく、主だった船長がライザの船に集まっていたのである。


「ライザ、冷静になれ。今の戦力で正面決戦を挑んでは、負けるのは目に見えているんだ。俺の作戦を了承してくれ」

挑みかかるようなライザの視線を真っ向から受け止めながら、ラドリックは静かに言った。

「それはわかっているわ!でも、貴方の船一隻だけを囮にするなんてできない!」

「だが、そうしなければこちらの勝機は無い」


迎撃艦隊は数だけは揃ったものの、殆どがフリゲート、ピンネース等の中型の艦隊だった。イスパニア艦隊の出航を確認したイングランド側の密偵からの情報によれば、イスパニア艦隊は戦列艦こそ居ないものの、重ガレオンを旗艦にガレオンを多数擁している・・・・苦戦は必死だった。

そこで、ラドリックは迎撃艦隊唯一の大型艦であるBand of lightを囮にする事によって敵をひきつける事にした。そして手薄になったキングリューが乗るであろう旗艦をライザ達が包囲して撃破する・・・・・それがラドリックが立てた作戦だった。

「・・・・・ラドリック・・・貴方死ぬつもりなの・・・?相手は一隻じゃないのよ?」

「わかっているさライザ・・・しかし俺は死ぬつもりは無い」

「ならば、せめて艦隊を二分して」

「ライザ・・・・申し出は嬉しいが、そうなると今度はライザの方が手薄になる。いくら俺が敵を引き付けても、旗艦を裸にするほど敵も甘くは無いだろう・・・・護衛艦のガレオンと旗艦の重ガレオン・・・イスパニア艦隊の強さはルアンダで思い知っただろ?」

「そ・・・それは・・・・」

ライザはラドリックの言葉に反論できなかった。ルアンダのイスパニア警備艦隊でさえ、一対一では押されていたのを思い出したからだ。

「とにかく、ここは俺に任せてくれ・・・・頼む」

「・・・・・わかったわ」

ラドリックの言葉にライザは答えると、部屋に居る全員を見回した。

「我が艦隊はこれよりイスパニア艦隊の迎撃にあたります。副長、敵との遭遇予測はどれぐらい?」

「このまま南下すれば・・・・恐らく半日後は敵と遭遇します。遭遇予定は・・・・・」

ライザの問いかけに副官は答えると、机の上に広げられている地図をの一点を指し示した。

「なるほど・・・・オポルト沖か・・・・」

集まった船長の一人が呟いた。

「ラドリックは先行して敵との口火を切って。残りの艦は手薄になった敵旗艦を集中攻撃します!」

「了解!」


ライザの言葉に男達は敬礼を返して答えた・・・・



§2§


作戦会議が終わったあと、Band of lightはライザ達と別れ、先行してビスケー湾をさらに南下していた。

「しかしぼっちゃ・・・いや、船長・・・ほんとにいいんですかい?」

「何がだ?」

「いや・・・・相手は少なく見積もってもガレオン級10隻以上ですぜ?いくらBand of lightが大型ガレオン級の戦艦だといっても荷が重くないですかい?」

心配そうに自分を見るエドに、ラドリックは朝焼けの空を見ながら答えた。

「確かに今までの敵とは違う、イスパニアの正規艦隊だからな・・・・だが」

「だが、勝つためにはこれしかない・・・・ですな」

「そうだ、例え圧倒的に不利な状況でも・・・・俺達はやらなければならない」

「英国紳士の矜持にかけてですかい?」

ラドリックの言葉にエドがおどけてみせる。ラドリックはその言葉に苦笑しながらも、言葉を続けた。

「それもあるがな・・・・・だが、それよりも大切な事がある」

「・・・・・・?」

「俺は今までの航海で色んな経験をしてきた・・・楽しい事もあったが、悲しい事を多かった・・・もう俺は、自分の親しい人達が悲しんだりするのを見たくないのさ・・・女々しいと思われるかもしれないがな・・・」

「・・・・・船長・・・・・」

「エド達には迷惑をかけるが・・・・だが、これが俺なんだ・・・・すまない」

そういうと、ラドリックはエドに頭を下げた。

「何言ってるんですか船長、船長の事はあっしが一番わかってるんですぜ?」

「・・・・エド・・・・」

「それに・・・・あっしも気持ちは一緒でさ、女房や娘の住んでいるロンドンを火の海にはしたくありませんぜ。ディックやロイ達も気持ちは一緒でさ」

そう言いながら、エドは胸元から鈍く光る十字架を取り出した。

「・・・・それは?」

「マリアが出航の日に渡してくれたんでさ。わざわざ王宮前の教会にまで行って貰って来てくれたんでさ」

そう言いながら、エドは恥ずかしそうに笑った。

「・・・・エド・・・・絶対に生きて帰るぞ」

「勿論でさ、あっしを誰だと思ってるんですかい、百戦錬磨のエドワード・シモンズですぜ?」

エドの言葉にラドリックは笑った。つられてエドも笑う・・・・しかし、その笑い声は長くは続かなかった。

「前方二時の方向に多数の船影を確認!」

ロイの叫びに二人の表情が引き締まる。

「ロイ!お客さんか!」

「間違いありません!イスパニア艦隊です!」

エドがロイに確認すると同時にラドリックは声をあげた。


「全員戦闘配置に付け!これより我が艦は敵艦隊に対して砲撃戦を仕掛ける!」



§3§



「敵艦の砲撃来ます!!」

「レイモンド!面舵一杯!」

「アイ・サー!」

ラドリックの声にレイモンドは舵輪を回す・・・・Band of lightの巨大な船体が軋みを上げなら旋回していく・・・そして数瞬の後、激しい衝撃がラドリック達を襲った。

「被害知らせ!!」

「損傷は軽微!敵の砲撃の一部が船尾に着弾したようです!」

「修理班は船尾の修理に向かえ!エルウッド!反撃を!」

「ヤー!」

ラドリックの命令にエルウッドが手にした指揮棒を号令と共に振るうと、敵艦に向けて無数の鋼の牙が襲い掛かった。敵艦は回避運動を試みるが、エルウッドの正確な砲撃は敵の回避運動をうわまった。耳を劈くような轟音と共に敵のガレオンは爆発炎上する。

「敵艦沈黙!」

「これで何隻だ!」

「5隻です!」


敵艦隊と遭遇してから既に6時間が経過していた。突如単艦攻撃をかけてきたBand of lightを、イスパニア艦隊は本格的な戦闘前の生贄にするつもりだったのだろう、我先に襲い掛かってきた。そして、Band of lightは多数の敵を引き付けながら、たった一隻の戦いを続けていたのだった。

「エド・・・・被害はどうなっている?」

「まだまだ戦えますが・・・・本隊の方はうまく行きますかね?」

「それはそれで心配だが・・・・こっちも余裕があるわけじゃない」

「まあ、それはそうですがね・・・・」

「おやっさん!次の敵さんが来ましたぜ!」

エドとラドリックが声の方を向くと、ディックがこちらの砲撃を避けながらこちらに向かってくるガレオンを指差した。そのガレオンは帆を炎上させながらもこちらに一直線に突っ込んでくる・・・

「・・・・どうやらまだ楽はさせてもらえないようだな・・・・・」


そう言うと、ラドリックは腰の剣の柄を握った・・・・・・



It will continue next time.
posted by ラドリック at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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