2007年03月24日

開拓地へ・・・

§1§




「よし、グランドケイマンが見えたぞ!帆を畳め!総員投錨用意!」

副長のエドの声に船員達が慌ただしく投錨の用意をする。ロンドンを出航したBand of lightは、一路カリブ海にあるイングランド開拓地「グランドケイマン」を目指していた。そして今、目の前にその島影が見えたのである。

グランドケイマンは、クリストバル・コロンが発見した西インド諸島の一部であるケイマン諸島最大の島で、国際条約によりイングランドの開拓地として認められている。このような開拓地は他にも5つあり、それぞれ欧州諸国の開拓地として、新天地を目指す航海者の基地となっていた。

「おやっさん、投錨完了しました!」

「よし、ボートを降ろせ!グランドケイマンに上陸するぞ!」

副甲板長のロイがエドに報告すると、エドは次の指示を出した。グランドケイマンはBand of lightのような大きな船を係留する桟橋ができていないのだ。それも開拓地の開拓地である所以であった。

「ボートの準備できました!」

「船長、いつでも上陸できますぜ?」

ロイの再度の報告に、エドは傍らのラドリックに言った。その言葉にラドリックは頷きながら、舷側へと歩き出した。

「よし、今から上陸するぞ、ディック!ついて来い!エドはBand of lightを頼む!」

「アイ・サー!」

「まってお兄ちゃん、私も行く!」

「よ〜し、残った奴らは積荷のチェックだ!途中の嵐で傷んだものが無いか、船体のチェックもするぞ!」

ラドリックのあとをディックとソフィアが続く。それを見ながらエドは矢継ぎ早に指示を出していった・・・



§2§




「しかし・・・何にもないところねぇ・・・でも、活気はあるみたい・・・」

周りをキョロキョロと見回しながら、ソフィアは呟いた。ボートでグランドケイマンに上陸したラドリック達は、ある人物を探して建築途中の建物の前に来たのだった。その建物はグランドケイマンの事業の中心になるらしく、回りには無数のテントがあった。

「それはそうさ、まだこの町はできたばかりだ、何も無くて当たり前だ。だが、この活気なら今からどんどん大きくなるはずだろうな」


ラドリックはソフィアにそう言うと、建物に使う資材を運んでいる男に話しかけた。

「仕事中にすまない、このグランドケイマンの責任者であるグレッグ男爵はどちらにいるか知らないか?」

「・・・・・私がグレッグだが、君は?」

その男・・・グレッグ男爵は、肩に担いだ建築資材を地面に置いて、ラドリックの方を向いた。日焼けした精悍な顔と鋭い眼光は、とても男爵の称号を持つ貴族には見えなかった。

「あ・・・貴方が・・・失礼いたしました!私はイングランドの航海者ラドリック・ガーランドと申します。後ろに居るのは私の妹で船の主計長を勤めているソフィアと甲板長のディック・ウォレンです」

ラドリックは言葉を改めると、慌てて頭を下げた。後ろに居たソフィアとディックもそれに習う。

「ああ、ここはロンドンの宮廷とは違う。堅苦しい挨拶は抜きにしよう」

グレッグは手を振ってラドリックにそう言った。

「で、私に何の用かな?」

「はい、実はロンドンのサセックス伯からグレッグ卿に手紙を預かってきました」

「そうか・・・では、そこのテントで待っていてくれ。私はこの資材を運んでから行く」

「俺が運びましょうか?」

「いや、常に体を動かしていないと落ち着かない性分でな。だからこそ、開拓地の責任者も勤まるんだが・・・まあ、長旅で疲れただろうから、休んでいてくれ」

ディックの申し出をやんわりと断ると、グレッグは笑いながらそう言った。そして再び資材を肩に担ぐと、建築現場に歩いていった。

「・・・・貴族のお偉いさんにもあんな人が居るんですねぇ・・・」

「確かに、ロンドンの貴族とはちょっと違うな。まあ、男爵がああ言ってる事だし、テントで待たせてもらおう」

ぽかんとした表情でグレッグの後姿を見て呟くディックの肩をラドリックはぽんと叩くと、ディックとソフィアを促してテントに向かって歩いていった・・・



§3§



「待たせたな」

ラドリックがテントの中で待っていると、グレッグが戻ってきた。グレッグは空いている椅子に座ると、手にした木のコップをソフィアに手渡した。

「サンティアゴから持ってきたパイナップルのジュースだ。お嬢さんにはこっちの方がいいだろう」

「ありがとうございます、グレッグ卿」

「お嬢さん、さっきも言ったがここでは堅苦しいのは抜きだよ」

ソフィアが礼を言うと、グレッグは笑いながらそう言った。そして、テーブルにおいてあったテキーラの瓶を手に取ると、自分の分も含めて三つのコップに注いでいく。

「まあ、飲んでくれ。まさか酒は飲めないなんて言わないだろ?」

「では、頂きます」

グレッグの勧めに、ラドリックとディックはコップを受け取る。グレッグはそれを見ると、自分のコップに入ったテキーラを一気に飲み干した。

「やはり働いた後の酒は美味いな」

その言葉にラドリックもコップの中のテキーラを飲む。ウィスキーとは違った濃い味の酒が、ラドリックの喉を焼いた。

「さて・・・・一息ついたところで、サセックス伯からの手紙を見せてもらおうか」

グレッグの言葉にラドリックは頷くと、懐から一枚の封筒を取り出した。封筒にはイングランドの公文書につかう印章が押され、蝋で封がしてあった。

「これです」

グレッグはラドリックから手紙を受け取ると、机に置いてあったペーパーナイフで封をはがして中身を取り出して広げた。そして真剣な表情で内容を確認する。

「・・・・そうか、君がキングリュー伯爵の艦隊を撃破したラドリック・ガーランドか、噂は聞いているよ。さっき名前を聞いたときにもしやとは思ったんだが・・・まさかイングランドを救った英雄と会えるとは光栄だ」

「やめてください、俺はライザを手伝っただけです。英雄だなんてとんでもない。たまたま居合わせただけですから・・・」

グレッグの言葉に頭を掻きながらラドリックは言った。その言葉にグレッグはニヤリと笑った。

「まあいい。ラドリック、君はこの手紙の内容をしっているか?」

「いえ」

「そうか、サセックス伯も人が悪いな・・・」

「どういうことです?」

「君はサセックス伯の命令でハバナ沖の海賊を掃討したことがあるらしいな」

「ええ」

「ハバナの沖合いにはバハマ諸島という円状に連なった島々があるんだが、実は最近そのひとつに海賊が根拠地を作ったらしいんだ」

「なんですって?俺があの付近の海賊を掃討した時にはそんなものはありませんでしたが・・・」

「ああ、どうも最近まで秘匿されていたらしい。その海賊の根拠地のせいで、この所我が国だけではなく他の欧州諸国の輸送船団も襲われているらしい。その被害は甚大で、各国の開拓地への物資も滞っているらしい」

「そんなことが・・・・」

ラドリックはグレッグの話を聞いてそう呟いた。

「確かにおやっさんと掃討中に「どっからあれだけの海賊が沸いて来るんだ」と話をしたことはありましたが、まさかあんな所にあるなんて・・・」

ディックも呻くように言った。そして、その二人の様子を見ていたグレッグが言葉を続ける。

「そこでだ、俺は本国にその海賊の根拠地・・・捕まえた海賊の手下が言うにはナッソーと言うそうだが・・・・そのナッソーを調査するために人を派遣してくれるように頼んでいたんだ」

「・・・・ということは」

「そうだ、サセックス伯の手紙には、君をその任に当てるようにと書いてある。ラドリック・・・君は以前サセックス伯とやりやったそうだな?」

「いえ、そんな・・・」

グレッグの言葉にラドリックは視線を下に落とした。確かにラドリックは大海戦の出撃命令を何度も断っている為、ラドリックに対するサセックス伯の印象は悪い。

「まあ、あのおっさんはやれ格式だ規律だとうるさいからな。能力はあるし、悪い人ではないんだがな」

「お・おっさん!?」

グレッグの言葉に驚くラドリック・・・

「ああ、俺も君と一緒だ。海軍で艦隊を率いてたんだが・・・どっちかというと壊すより作る方に興味があってな、サセックスのおっさん・・・いや、サセックス伯にはよく反抗したもんさ。だから開拓地の責任者なんて職に回されている・・・ラドリック、君もある意味貧乏くじを引かされたな」

「そ・・・そうなんですか・・・」

あまりの事に呆然とするラドリック・・・グレッグはその表情を見て楽しそうに笑うと、言葉を続けた。

「まあ、この際サセックス伯の思惑は置いといてだ、ラドリック、俺からも頼む・・・ナッソーの実情を調査してくれないか?」

そうグレッグは言うと、ラドリックに頭を下げた。

「やめてくださいグレッグ卿。私もイングランド人です、グレッグ卿がそう仰るなら、協力させてもらいます。そもそも私が今回こちらに来たのは新大陸の調査が目的ですから、付近の海賊の動向を探るのも調査のうちです」

「そう言ってくれると助かる。俺が直接行けばいいんだが、この地を離れるわけには行かないんでな」

そう言うと、グレッグはラドリックに右手を差し出した。ラドリックも手を差し出し、二人は固く手を握り合う。

「それでは頼んだぞ、イングランドの英雄殿」

「グレッグ卿・・・その呼び方は勘弁してください・・・・」

ラドリックはそう言うと、再び頭を掻いた。グレッグやソフィア、ディックが一斉に笑う。

「よし、今日はとことん飲もう、久しぶりに本国の話も聞きたいしな。船上で待ってる他の乗組員にも上がってもらってくれ。ささやかだが宴を開かせてもらおう」

「ありがとうございますグレッグ卿・・・ディック!エドたちを呼んできてくれ!」

「アイ・サー!」

ラドリックの言葉に、ディックがテントを出て行く・・・・そしてその夜、グランドケイマンの船着場には、明かりが消えることは無かった・・・・


posted by ラドリック at 18:23| Comment(3) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
我らが英国の英雄の新たな活躍が楽しみです。
けれど、貴方の征く道は過酷な修羅の道。
可憐な妹君をお連れするにはふさわしくありますまい。
この私が責任を持ってお預かりするので、どうぞ我が船にお引き渡し願いたい。
( ゚Д゚)y─┛~~
Posted by Julian at 2007年03月27日 22:36
その男、Julianと歩む道こそが修羅の道だったとは、この時はまだ年若いソフィアには知る由もなかった・・・・・。

ということで、このわたくs
Posted by ケイロン at 2007年03月29日 00:42
>Julian卿

Julian卿の船には見目麗しい華がいくつも乗っ
てるそうですので、うちのソフィアなんぞ求め
なくてもいいでしょうに・・・・
ちなみに「結納金はおいくら?」と言っており
ます(ぇ


>ケイロンさん

修羅の道・・・・やはり金色夜叉で蹴られる方
ですか(ぉ

ケイロンさんには可愛い奥さんとお子さんがい
らっしゃるので、その家庭の中に爆弾を投げ込
む必要はないかと(ry
Posted by ラドリック(管理人) at 2007年04月04日 19:52
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