2007年04月28日

脱出

§1§




「こいつらは海賊なんかじゃない!イングランド海軍の密偵だ!」


ハイレディンの影武者だった男がラドリック達を指差しながら叫ぶ。その声に周囲の海賊達が一斉に立ち上がった。

「なんだって!」

「よくもここまで入り込んできやがったな!」

「簀巻きにして鮫の餌にしてやる!」

口々に罵声を浴びせながら得物を構える海賊達を向こうにまわしながら、ラドリックとディックは周囲を見回していた。

「まずい事になりましたね・・・・船長どうします?」

「どうするといったって・・・・取り合えず・・・」

ラドリックはそう呟くと、腰のベルトに手挟んでいた短銃を抜き放ち、空に向かって撃った。その音に、一瞬海賊達が身を竦ませる。

「取り合えず逃げるぞディック!」

「了解!」

ラドリックはディックにそう言うと、ハイレディンの影武者だった男に向かって走り出した。ディックもそれに続く。

「なっ!?」

突然の行動に驚く影武者の横をすり抜けると、ラドリック達は目の前の林に向かった。

「くそ・・・・馬鹿にしやがって・・・・おい、追いかけるぞ!」

不意を衝かれた影武者は配下に声をかけると、ラドリック達のあとを追いかけて林に向かった。酒場にいた海賊達も大半はあとに続いたが、一部の者はテーブルに座ったまま動かなかった。そして、その中の一人が林の方を見ながら呟いた。

「・・・・提督、どうします?」

「・・・・・ほっとけばいい・・・というのは無関心すぎるか」

そう言うと、提督と呼ばれた男は椅子から立ち上がった。

「出港準備をするぞ、それと・・・・外の連中にも伝書カモメを飛ばしておけ」

「了解しました」

男はそう言うと、桟橋を目指して歩き始めた・・・・・

§2§



「しかし、まずい事になりましたね・・・」

「そうだな・・・・エド達は無事に出航できただろうか・・・」

ラドリック達は林の中を走り続けていた。あとを追いかけて来る海賊達をまくのに林の中を滅茶苦茶に走った為、結果としてラドリック達も方角を見失っていたのだ。

「まさかこんな所であいつに会うとは・・・・ハイレディンはあいつを許さなかったんでしょうね」

「そうだろうな、ハイレディンは失敗を許さない男らしいからな・・・・それがバルバリア海賊の結束を固める事にもなっているんだろうが・・・・・」

「なるほど・・・・お!前が開けてきましたぜ!」

ディックの言葉と共に前方から光が差し込んできた。ラドリック達は足を速める・・・・しかし、林から出たラドリック達が見たものは・・・・そう、一面の海と切り立った崖だった。

「くっ!・・・・行き止まりか!」

「船長!奴らが追いついてきたみたいです!」

後方を警戒していたディックの言葉にラドリックが後ろを振り向くと、海賊達が林から出てきたところだった。

「手間をかけさせやがって・・・・・」

影武者だった男がそう言いながら腰に吊るしたサーベルを抜く・・・

「もう逃げられないぜ、大人しく地獄に落ちるんだな」

「けっ!ハイレディンの所を追い出された甲斐性無しが何を言いやがる!影武者野郎が!」

「うるさい!俺はもうハイレディンの影武者じゃない。俺の名前はアル・セヴァスと言うんだ!」

影武者・・・いや、アルはそう言うと、サーベルの切先をラドリック達に向けた。

「さあ、どう料理して欲しい?切り刻んで欲しいか、それとも簀巻きにしてここから下に放り込んでやろうか!」

「どっちも趣味じゃないな・・・・ディック、どうする?」

「そうですね、取り合えず可哀想なアルさんにご退場いただいて考えますか?」

アルの言葉にラドリックとディックが答える。その言葉はアルの復讐の炎に油を注いだ。

「野郎ども!お前達はそっちのパイレーツコートの奴をやれ!俺はこいつと決着をつける!」

「おお!」

アルの命令に海賊達はラドリックに殺到する。アルは命令を下すと、ディックに向かってサーベルを繰り出した。それをディックがやはりサーベルで受ける。

「小僧・・・・あの時のようには行かんぞ!」

「それはどうかな!」

ディックはサーベルに力を込めると、アルを押し返した。体勢を崩したアルにディックは矢継ぎ早にサーベルを繰り出す。

「あんたの言い様ではあの時は運で俺が勝ったと思ってるようだが、それは違うぜ!」

「ほう・・・・あの時は邪魔が入って後れを取ったが、ならば俺が負けたのはお前の力が俺を凌いでいたとでも言うのか!」

ディックの鋭い斬撃をことごとく受け流したアルは反撃に転じた。必要最小限の動きで鋭い斬撃をディックに放つ。

「確かにあの時の実力はあんたの方が上だっただろう。しかし、俺には『困っている女性の為を助ける』と言う崇高な目的があったのさ、それが俺をあんたに勝たせたのさ!」

「何を馬鹿げた事を!」

「馬鹿げた事かねぇ?前にも言ったが、俺はともかくうちの船長は本気でそう思ってるぜ?」

ディックはアルの斬撃をかわしながら、おどけた様に言った。

「そういえばあの時もそんなことを言っていたな・・・・お前はともかく、そんなことを本気で言ってる船長は大丈夫なのか?俺よりは格段に落ちるが、部下も元はバルバリア海賊だぞ?何人も同時に相手をしては、お前の敬愛する船長があぶないのではないか?」

アルがディックの気を散らそうと言葉を放つ。しかし、ディックはラドリックの方を見向きもせずにアルにサーベルを振るった。

「ああ、悪いがまったく心配してないぜ。俺は自分より剣の腕が劣る奴を船長として仰ぐほど人間ができてないんでな。お前さんんの方こそ、部下の心配をした方がいいんじゃないか?」

その言葉にディックの斬撃をかわしたアルの視線がラドリックの方を向く・・・・

「な・・・・なんだと!」

アルが見たのは、次々に倒される自分の部下の姿だった。ラドリックは複数の敵を相手にしながらも、次々と相手を屠っていた。

「ど・・・どういうことだ!」

「ああ、うちの船長は大海戦にも殆どでない似非軍人だがな、剣の腕は俺より上だ」

呆然とするアルにディックが言葉をかける。

「そして・・・俺も昔の俺じゃない。そろそろ決着をつけようか!」

「な・・・なめるな小僧!!」

アルとディックの影が交錯する・・・・そして数瞬の後・・・アルは大地に膝を屈した。

「ば・・・馬鹿な・・・・」

「悪いな」

ディックはそう言うと、サーベルの柄をアルの首筋に叩き込んだ。アルは地面と不本意なキスをする・・・

「ディック、終わったか?」

「ええ、船長の方はどうです?」

「何人か逃がしてしまったからな・・・このままじゃ追っ手が来るのは確実だろう」

「どうします?ここから桟橋まで行くには道もわからなければ時間もないですし・・・」

ディックの言葉にラドリックは頷くと、海の方を見た。そこには出航したらしいBand of lightの姿があった。

「どうやら神様は俺達の事を見捨ててはいないようだぞ」

ラドリックはそう言うと、腰から短銃を抜いて空に放った。しばらくするとその音に気がついたのか、Band of lightからボートが下ろされ、こっちに向かってくるのが見て取れた。

「どうやら気づいてくれたようだ、ディック行くぞ」

「行くって・・・・どうするんです?」

ディックの言葉にラドリックは崖の先端まで進むと、パイレーツコートを脱ぎ捨て、指で下を指した。

「飛ぶんだよ」

「ちょっと!船長!」

ディックの言葉を待たず、ラドリックは崖から身を躍らせた。ディックが崖から下を覗くと、ラドリックは抜き手を切って、ボートの方に泳いで行た。

「まったく・・・・・あの人についてきたら命がいくつあってもたりゃしないぜ・・・」

ディックはそう言うと、まだ意識を失ってるアルを一瞥すると、ラドリックを追って海に身を躍らせた・・・・



§3§




「ぼっちゃ・・・いや、船長・・・・あんまり無理はしないでくださいよ?」

「ああ、わかっているさ・・・だがなエド・・・まさかあんなと所であんな奴に会うとは思わなかったんだよ。なあ、ディック」

「確かにそうですね、腐れ縁とはこのことですかねぇ・・・」

エドの言葉に濡れた体を拭きながら、ラドリックとディックは答えた。二人を収容したBand of lightは、ナッソーの警戒網から離脱すべく、一路ハバナ方面に針路を取っていた。

「で、エドの方は大丈夫だったのか?」

「出航に関しては問題はありませんでした。ただ・・・恐らく追っ手がかかると思いますぜ?早くレヴィローズ船長達と合流しないと・・・・」

エドがそう言ったその時、ナッソー方面を警戒していたロイが、メインマストの上から叫んだ。

「船長!おやっさん!敵さんが出てきましたぜ!」

「やはり来たか・・・・ロイ!数は!」

「1・2・3・4・・・・数え切れませんぜ!」

ロイの言葉にラドリック達がナッソーの方を見ると、無数の艦艇がナッソーから吐き出されるように出撃してくるのが見て取れた。重キャラックやガレオンをはじめ、軽ガレオンや大型キャラック等の艦艇までが、Band of lightを補足すべく出撃してきたのだった。

「くっ・・・・流石に怒らせすぎたか・・・・・エド、レヴィさん達との合流地点までどれぐらいかかる!」

「そうですね・・・伝書カモメが届いていれば・・・・あと3時間ほどで・・・」

「間に合わないか・・・・・損傷した箇所の応急修理は?」

「直撃を食らわなければ持つでしょうが・・・」

「・・・・・・絶体絶命か・・・・」

ラドリックは舷側の欄干を拳で叩いた。そうしている間にも船足の速い艦艇は最大戦速でBand of lightを追ってくる。

「追いつかれるのは時間の問題か・・・・エド!総員を戦闘配置につかせてくれ!」

「船長正気ですか!」

「どの道このままでは補足されるだけだ、降伏しても受け入れてくれるわけがないだろうし、降伏するつもりもない!」

「・・・・・了解でさ、総員戦闘配置!!」

エドの号令に船員が慌ただしく動く。その時、ロイが再びラドリックを呼んだ。

「船長!右舷より接近する艦隊がいます、数は五隻!」

「敵の新手か!艦種は!」

「艦種は・・・・せ・・・戦列艦です!!」

「何だって!」

ラドリックはロイが指差す方向を見た。そこにはBand of lightより巨大な船が五隻・・・・そう、現存する帆船で最強の戦闘艦である戦列艦が、その雄姿を現していた。

「ナッソーは戦列艦まで擁していたのか・・・・これでは万一つも勝ち目は・・・・・」

ラドリックは近づく戦列艦艦隊を見て呟いた。恐らく一隻であっても今のBand of lightでは敵対する事は敵わないであろうその船は、帆船を操る軍人にとって最高峰の船だった。

「・・・・・このままでは・・・・・・」

ラドリックが視線を甲板に落としそう呟いた時、ロイが三度叫んだ。

「船長!戦列艦艦隊がナッソーの艦隊に対して砲撃戦を挑んでいます!」

「何だって!」

ラドリックが再び戦列艦の方を見ると、戦列艦艦隊は、その砲門をナッソーの艦隊に向け一斉砲撃を開始していた。無数の砲弾がナッソー艦隊に吸い込まれるように飛び・・・・次の瞬間轟音が辺りに響いた。砲弾はほぼ全弾命中し、Band of lightを補足しようとしたナッソー艦隊の前衛は壊滅した。

「・・・・・何という破壊力だ・・・・」

ラドリックが呟く。そしてその時通信文を持ったギムが、ラドリックに近づいてきた。

「船長、戦列艦艦隊の旗艦より伝書カモメです」

ラドリックは通信文を受け取ると、目を通した。そこには「貴艦は急ぎこの海域より離脱せよ」と書いてあった。

「一体あの艦隊は・・・・味方なのか・・・・?」

呆然とするラドリック・・・・その間にも謎の艦隊はナッソー艦隊と熾烈な砲撃戦を行なっていた。圧倒的な火力で次々と船を沈める戦列艦艦隊であったが、ナッソー艦隊も大型艦を繰り出して反撃を開始していた。

「船長・・・ここは好意に甘えましょう」

「ああ・・・・・」

エドの言葉にラドリックは頷くと、レイモンドに離脱を命じた。そしてギムを呼ぶと、謎の艦隊に返信送るように命令した。

「・・・・・・しかし・・・・一体あの艦隊は・・・・・」

ラドリックは徐々に見えなくなる戦闘を見ながら、一人呟いた・・・・・




§4§



「提督、どうやらあの船は離脱したようです。こっちもそろそろ引きますか」

「ああ、そうだな。これだけ足止めすれば大丈夫だろう」

提督と呼ばれた男は副官の意見に頷くと、各艦に戦域離脱を命令した。命令を受けた戦列艦は、追いすがる海賊船に砲撃を加えながらも順次離脱していく。ナッソーの艦隊も流石に追撃する余力は無いようで、追ってくる気配はなかった。

「提督、あの船から返信です「貴艦隊の援護に感謝する。この借りはいつか必ず返させて頂く Band of light船長 ラドリック・ガーランド」だそうです、律儀ですな」

「まあそれだけ若いということさ、向こう見ずとも言うがな」

「提督も若い頃はあんな感じでしたな」

「おいおい、俺はあんなに考えなしに突っ込む事はなかったぞ」

「そうですか?裕福な商人で一生を終えられるのに、艦隊を率いて戦う道を選んだのは誰でしたかな?」

「参ったな・・・・・」

副官の言葉に男は頭を掻いた。

「まあ、若い時は無茶もいいだろう、あの船長も今から色んなことを経験するだろう・・・・これもいい経験さ」

「そうですな」

「よし、それでは俺達も引くぞ。針路をバミューダへ」

「了解です、ウィリアム提督」

副官は敬礼を返すと足早にその場を去った。そしてウィリアムと呼ばれた提督・・・・ウィリアム・キッドは、Band of lightが離脱した方向を、腕を組んだままじっと見つめていた・・・・・



posted by ラドリック at 20:31| Comment(3) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>「さあ、どう料理して欲しい?切り刻んで欲しいか、それとも簀巻きにしてここから下に放り込んでやろうか!」

>「どっちも趣味じゃないな・・・・ディック、どうする?」

>「そうですね、取り合えず可哀想なアルさんにご退場いただいて考えますか?」


このやりとりが特に格好いいですー
こういうのが書けるといいなぁ…ウラヤマシイ。

書くのがさぞかし大変であろう見事な長文を
ハイペースで更新なさる卿のお力に改めて感服しました。
Posted by Julian at 2007年05月02日 00:40
ナッソー編お疲れ様でした!
長文を読むのは苦手なのに引き込まれてしまいます。
Posted by Sora at 2007年05月02日 12:19
>Julian卿

お褒めの言葉ありがとうございます。でも全然
ハイペースではないですよ〜(汗

多分Julian卿でもかけますよ。というか、Julia
n卿のあの文章が私には憎い(ぇ

>Soraさん

ほんとならもっと早く更新しないといけないの
ですが・・・なんせアイデアは一杯あっても筆
が進まないのです・・・(マテ

これからも皆さんに楽しく読んでもらえる文章
を目指しますので、どうぞよろしくです^^
Posted by ラドリック(管理人) at 2007年05月02日 20:57
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