2007年05月26日

新たなる出会い

§1§


「ここは相変わらず暑いな・・・・カリブとは違った暑さだが・・・・」

「そうですね、乾いた暑さというやつでしょうか」

ラドリックはバヌースの首元をくつろげて風を送り込みながらエドに言った。間一髪でナッソーを脱出したラドリック達は、ナッソーの内部情報をグレッグ男爵に報告した後、交易の為に東地中海のアレクサンドリアに来ていた。本来アレクサンドリアはオスマン帝国の領土の為、異教徒であるラドリック達は入港できないのだが、蛇の道は蛇の言葉の通り、出航所の役人にいくばくかの付け届けを贈ることで半ば公然と入港することができたのである。

「しかし・・・・これだけ砂煙がひどいと、カリブにいるときのような格好はできないな」

「そうですねぇ、流石にバヌースを脱ぐってわけにも行きませんしね」

ソフィアが交易所に行っている間に所用を済ませたラドリックとエドは、情報収集も兼ねて休憩所に向かっていた。イスラム教徒は酒を飲まない為、酒場というものがオスマン帝国にはなく、水タバコや茶を飲む場所としての休憩所が酒場の役割を果たしているのである。

「でも不思議ですねぼっちゃん」

「何がだ?」

「イスラム教徒って奴は、豚や牛の肉は食わないし酒も飲まないっていうんですぜ?何が楽しみで生きてるんだか・・・・」

「この世界の人間が全員エドのように飲んだくれてる訳じゃないんだよ。それにイスラム教徒は戒律で酒や羊の肉以外の肉を食べてはならないんだそうだ。ほんとは食べたり飲んだりしたいのかもしれないぞ?」

「あっしはキリスト教徒で良かったですよ。酒が飲めない世界なんてまっぴらごめんでさ」

「まあ、そうだろうな・・・・・ん?休憩所の方が騒がしいぞ?」

そう言って肩をすくめるエドにラドリックは苦笑しながら頷く・・・その時、休憩所の方から複数の人間の怒鳴り声が聞こえてきた。

「喧嘩・・・・ですかね?」

「わからんが・・・・とりあえず行ってみよう」

ラドリックはそう言うと、エドを促して休憩所の方へ向かった・・・・



§2§



「貴方達、女相手に複数でかかってくるなんて卑怯じゃない!」

「ガキは黙ってろ!」

「失礼ね!私にはユリアって言うちゃんとした名前があるのよ!」


ラドリック達が休憩所に着くと、そこでは休憩所の看板娘のユリアが、砂漠の部族らしい男達数人に取り囲まれていた。ユリアは一人の女性を自らの背に庇っていた。

「その女は我が部族の裏切り者なのだ!我々はそいつを連れ戻す為にアレクサンドリアに来たのだ。さあ、大人しくその女をこっちに渡してもらおうか!」

「冗談じゃないわ!このお姉さん嫌がってるじゃない!誰が渡すもんですか!」

「どうしても渡さないというのな力ずくでも・・・・」

「ちょっと待ってもらおうか」

男がユリア達に手を出そうとしたその時、ラドリックの手が、その男の手を捻り上げていた。男は苦痛に顔を歪める。

「ぐっ!何をする!」

「どんな理由があるにせよ、か弱い女性に手を出すとは感心しないな」

ラドリックはそういうと、手を捻り上げたまま、相手の後ろに回った。その間にエドはユリア達を庇うように前に立った。

「離せ!」

「お・・・これは失礼」

男の言葉にラドリックは手を離した。男は素早く身を翻すと、腰のカタールを抜いた。男達の仲間も一斉にカタールを抜く。

「俺も気が短いと人に言われるが・・・・お前達は俺以上らしいな。あの女性が部族の裏切り者というのなら、その理由を聞かせてもらおうか!」

「異教徒の貴様には関係ない!」

「そうか・・・・ならばますますお前達の好きにさせるわけには行かないな!」

ラドリックはそういうと、腰の剣を抜き放った。そして、剣を油断なく構えながら、男達に正対する。

「異教徒め!」

手を捻られた男が、カタールを振り上げながらラドリックに踊りかかった。鋭い斬撃がラドリックを襲う・・・・しかし、ラドリックはその斬撃を剣で受け止めると、そのまま剣で相手を押し返した。男はその力に抗しきれずに後ろに下がると、カタールを構えなおして再び斬撃を放った。

「口で言っても聞かないのなら!」

ラドリックはそう言うと、その斬撃を紙一重でかわし、男に斬撃を放った。その斬撃は男の喉下で止まる・・・・男の喉から血が滴り落ちた。

「どうする・・・・・まだやるか!」

「くっ・・・・・異教徒め・・・・・」

男はそう呟くと、後ろの男達に目配せした。その合図に男達は剣を収める。

「サラよ・・・今日は見逃してやる。しかし覚えておけ、お前は我が部族の裏切り者だということを!」

男はそう捨て台詞を残すと、足早にその場を去っていった。


「ふう・・・・」

ラドリックは剣を収めると、ユリア達の方を向いた。ユリアは緊張の糸が切れたのか、その場にへなへなと座り込んでいた。

「ユリア、よく頑張ったな」

「えへへ、ラドリックさんのお陰で助かっちゃった。今日はソフィアは一緒じゃないの?」

「ああ、ソフィアは今交易所の方に行ってるよ。終わったらこっちに来ると言ってた」

「そうなんだ、ソフィアも一人で大変だね」

「まあ、俺には商才がまったくないからな・・・ソフィアには苦労をかけてるよ」

ユリアの言葉にラドリックは頭を掻くと、エドと一緒に椅子に座った。そして、ユリアにアラビアンティーを頼むと、まだ休憩所の隅に佇んでいる女性に声をかけた。

「無理にとは言いませんが、もしよろしければ事情を話していただけませんか?それと・・・私達は怪しいものではありません。ですから懐の懐剣はしまってください」

その言葉にその女性は懐剣を握る手を緩めると、ラドリックの座っている方へ歩み寄った・・・・





§3§






「ああ、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はラドリック・ガーランドというイングランドの航海者です。この男は私の船の副長のエドと言います」

ユリアが持ってきたアラビアンティーを飲みながら、ラドリックは女性に話しかけた。ちなみに、ユリアはちゃっかり4人分のアラビアンティーを持ってきて、話の輪に加わっている。

「貴方のお名前は・・・あの男達はサラ・・・さんと呼んでいたようですが」

「はい・・・私の名前はサラ・アクバールと言います。先程は助けていただいてありがとうございました」

その女性・・・サラはそう言うと、頭を下げた。

「いえ、困っている女性を助けるのは英国紳士の義務ですから」

「と、うちの船長は言ってますが、いつものことなんで気にしないでくだせぇ」

「おい、エド・・・・」

ラドリックとエドのやりとりにユリアが笑う・・・サラもかすかではあるが笑みを浮かべていた。

「それで・・・・サラさんはなんであの男達に追われていたんですか?」

「それは・・・・あの男達が言うように、私が部族を裏切ったからです」

「裏切った・・・・」

「ええ、私は部族のある男と結婚が決まっていました。でも、それを私が拒否したのです。そして、私は部族を出たのですが・・・・追っ手がかかってしまったのです」

「なるほど・・・・・」

サラの言葉にラドリックは頷いた。

「それで・・・これからサラさんはどうされるんですか?あの男達があきらめたとは思えませんが・・・?」

「それは・・・・」

「それなら簡単よ」

ユリアの声にラドリック達が一斉にユリアの方を向く・・・ユリアはにっこりと笑うと言った。

「ラドリックさんの船にサラさんが乗ればいいのよ」

「いや、ちょっと待ってくれ、うちの船には荒くれ共が一杯乗り込んでいるんだ、そこに女性を乗り込ませるわけには・・・」

「じゃあソフィアはどうなるの?」

「ソフィアは俺の妹だし、それにあいつは女性というより・・・」

「女性というよりなんですの?お・に・い・さ・ま?」

その声にラドリックが恐る恐る後ろを振り向くと、ぺルシアンドレスを着たソフィアが、腕組みをして立っていた。

「ソ・ソフィア・・・・は・はやかったな」

「早かったら悪いって言うの?お兄様」

「い・いや・・・そんなことは・・・・・」

「ユリア、取り合えず私にもアラビアンティーを頂戴、さあ、お兄様、詳しい話を聞かせてもらいましょうか・・・・・」



§4§



「なるほど・・・・それで、うちの船にサラさんを乗せた方がいいって訳ね」

「そうなの、恐らくこのままだとまたあいつらが来ると思うから・・・」

「たしかにその可能性が高いでしょうね・・・・」

「だから、それはわかるんだが・・・女性をうちの船に乗せるってのは・・・・」

「お兄ちゃんは黙ってて!」

「ラドリックさんは黙ってて!」

「う・・・・・」

ユリアとソフィアの一喝にラドリックは押し黙る。ソフィアはサラの方を向くと、その目を見ながら言葉を放った。

「サラさん、うちの船に乗りませんか?確かに航海士も水夫も男ばかりで私以外に女性はいませんが、もしサラさんが乗られるのなら、私の責任において手出しはさせません。もちろんここにいるエドや兄も守ってくれるでしょう」

「でも・・・・・」

「それに、ここにいるよりは洋上にいた方が危険も少ないと思います。仮に港に着いたときに襲ってきても、兄やエドが守ってくれるはずです。一見頼りなさそうな風貌ですが、うちの兄は剣の腕は確かです。サラさんは砂漠の部族の出身と言うことですが、ギザのピラミッドの守護者のラミアと言う人はご存知ですか?」

「・・・・・ええ」

ソフィアの問いかけにサラは頷いた。

「今は違う人がその名を継いでるようですが・・・先代のラミアを倒したのもうちの兄なんです」

「!!」

「驚かれるのも当然だと思いますが、これは本当の事です。先程の戦いで兄の実力はわかっていただいたとは思いますが、あえてサラさんの知っているであろう剣の使い手を上げて兄の実力をわかってもらえたらなと思ったんですが・・・・どうでしょう?」

ソフィアがサラを見つめる・・・・サラはその視線を受け止めて、頷いた。

「ソフィアさん、エドさん、ラドリックさん・・・・もしご迷惑でなければ、私を船に乗せていただけませんか?」

「こちらから言い出したんですから、勿論歓迎します。その代わり特別扱いはしません。一乗組員として、船の仕事はしていただきますがよろしいですか?」

「ええ、勿論です。どうかよろしくお願いします」

ソフィアの言葉にサラはそう言うと頭を下げた。そして再び頭を上げたときには、サラの瞳には決意の光が宿っていた・・・・・


posted by ラドリック at 01:21| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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