(注意:今回はネタバレを含んでいます)
§1§
「ふう・・・今帰ったぞ」
タラップを上がってきたラドリックがそう言うと、水夫達に指示を与えていたエドがラドリックの方を向いた。
「お早いお帰りですね船長」
「ああ、ここには用事もあまり無いしな・・・酒場に行くのも癪だし・・・」
エドの問いかけにラドリックは答えながら眼下に広がるエメラルドグリーンの海を見た。チュニスを出航したラドリック達は、一路カリブの開拓地グランドケイマンを目指し、開拓地に物資を納入したあと、グランドケイマンの南西にあるポルトベロに寄港していた。
「船長、お帰りなさい」
その声にラドリックが振り向くと、そこにはチャドリに身を包んだサラの姿があった。サラは手にした書類をラドリックに手渡した。
「物資の搬入は大方終了しました。いつでもヨーロッパに戻れます」
「ありがとうございますサラさん。しかし・・・・・」
「なんでしょう?」
「いや・・・暑くないですか?」
ラドリックはシャツの胸元に風を送り込みながら言った。
「ああ、私はいつも砂漠の中で生活していましたから。確かにこちらの暑さは砂漠の比ではないとは思いますけど・・・」
サラはそう言うと小首を傾げた。
「そうですか・・・・そういえば、ソフィアは何をしてるんですか?サラさん一人に仕事を押し付けて・・・困った奴だ」
「え?船長はソフィアさんと会ってないんですか?」
「ええ、会っていませんが・・・?」
ラドリックの言葉にサラは不思議そうな顔をする。
「じゃあすれ違いになったのでしょうか・・・?」
「何かあったんですか?」
「いえ、先ほど船にこの街の冒険者ギルドの方が訪ねて来られまして、ソフィアさんがその方の伝言を船長に伝える為に酒場に船長を探しに・・・」
「何だって!!」
サラの言葉にラドリックが大声を上げる。びっくりするサラの両肩をつかんだラドリックは、サラを揺さぶった。
「ソフィアがこの街の酒場に行ったと言うんですか!?」
「え・ええ・・・・」
サラの返事を聞くと、ラドリックは慌ててタラップを降りていった。その姿を呆然と見送るサラ・・・・
「あの・・・・エドさん・・・・」
「なんです?」
「私・・・・何か大変な事を言ったんでしょうか・・・?」
「いやいや、サラさんは何も悪くないですぜ。ただ、この酒場には色々ありましてね」
不安げな表情で問いかけるサラにエドは笑って見せるとそう言った。
「色々・・・・ですか」
エドの言葉にサラは小首を傾げる。
「そうです、ちなみに・・・・」
「ちなみに・・・?」
「サラさんは「世の中には自分にそっくりな人間が三人はいる」って話を信じやすか?」
エドはサラにそう言うと、豪快に笑った・・・・
§2§
「へぇ、君の名前はソフィアって言うのか・・・・可愛い名前だね」
「そ・そんな・・・・・」
「君の瞳はまるで磨かれた水晶のようだ、ずっと見てると吸い込まれそうだよ・・・」
その男は恥ずかしがるソフィアの手を握ると、ソフィアの目をじっと見つめた。
「あ・あの・・・私お兄ちゃんを探しに・・・・」
「君のお兄さん?きっと素敵な人なんだろうね・・・どんな人なんだい?」
「その・・・あの・・・・」
その男の問いかけに、ソフィアは頬を染めてうつむく。その頬に男の手が伸びた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ」
「ソフィアに触れるんじゃない!」
そして、その男の手がソフィアの頬に触れようとした瞬間、男の背後から怒声が聞こえた。その声にソフィアが声の方を見る。
「お・お兄ちゃん!!」
そして、その声に男が後ろを振り向くと、そこにはラドリックが立っていた。
「げ・・・この子の兄貴ってお前だったのか・・・・」
振り向いた男はラドリックの顔を見ると心底嫌そうな表情を見せた。そう・・・・例えるなら自分の顔を無理やり見せられたような・・・・
「ラウル!俺の妹に手を出すな!」
ラドリックはそう言うと、ラウルとソフィアの間に割って入った。
「お前の妹だと分かってたら誰が手を出すか!この子にはまったく問題は無いが、お前を兄貴と呼ぶつもりは無い!」
「何だと!!」
「何だよ!」
ラドリックとラウルと呼ばれた男は立ったままで睨み合った。恐らく二人の目の間に木片でも置いたら火がつくであろう。
「・・・・・・やっぱりそっくり・・・・」
二人の顔を見比べていたソフィアがぽつりと言った。
「誰がこんな奴と似てるもんか!」
「ソフィア!こんな奴と一緒にするな!」
ソフィアの言葉に二人はほぼ同時にソフィアの方を向くと、ソフィアに言った。
「ご・ごめんなさい・・・でも本当にそっくりなんだもん・・・」
ソフィアが頭を抱えながらそう言った。ソフィアの言うとおり、二人はそっくりなのだ。服装や肌の色は違うものの、あとは双子と言っても通るぐらい似ていた。
「まあいい・・・で、ソフィア・・・なんで酒場なんかに来たんだ?」
「ああ、それは冒険者ギルドの人がお兄ちゃんを訪ねて来たからそれを知らせに・・・」
「ああ、そうだったな・・・で、ギルドの人はなんだって?」
「なんかお兄ちゃんに頼みたい依頼があるからって言ってたの」
「なるほど・・・・で、なんの依頼か聞いてるか?」
「確か・・・・・」
ラドリックの言葉にソフィアは一瞬考えると、思い出したように言った。
「そうそう、酒場で働いてるラウルさんって人の依頼だって・・・あ・・・・まさか・・・・」
ソフィアは恐る恐るラドリックを見る・・・そこには、再びにらみ合う二人の姿があった。
「誰がお前の依頼なんか受けるか!どうせろくな依頼じゃないんだろ!」
「こっちこそ願い下げだ!俺は熟練の冒険者をよこしてくれって言ったんだ!誰がお前みたいな、なんの苦労も知らないぼんぼんに依頼するか!」
「何だと!」
「何だよ!」
睨み合いながらお互いを罵倒する二人・・・その一触即発の状態を回避したのはソフィアの声だった。
「お兄ちゃんもラウルさんも落ち着いてよ!」
ソフィアはそう言うと、ラウルとラドリックの間に割って入った。そしてラドリックの方を向くと指を突きつけた。
「お兄ちゃん!英国紳士は困っている人の依頼を断らないんじゃないの?それともお兄ちゃんはラウルさんが気に入らないからっていうそれだけの理由で依頼を断るって言うの?それじゃあ英国紳士じゃなくて似非紳士じゃないの!」
「そ・それは・・・・」
ソフィアの言葉にラドリックは狼狽する。そしてソフィアはラウルの方を向くと、ラウルの目を見ながら話しかけた。
「ラウルさん、こんなお兄ちゃんですが冒険者としての腕は確かです。ラウルさんは熟練の冒険者を寄こしてくれって頼んだんでしょ?冒険者ギルドの人がお兄ちゃんを訪ねてきたって事は、お兄ちゃんが熟練の冒険者という証だと思うんだけど・・・・どうですか?」
「・・・・・・わかったよソフィア、じゃあ聞いてもらうだけ聞いてもらおうか」
ソフィアの言葉にラウルはそう言うと、椅子に腰掛けた・・・
§3§
「実は・・・・ある物を探して欲しかったんだ。ソフィアは『花酔いの石』って言うのを聞いた事あるかい?」
「いえ・・・聞いたことがないです」
「俺も聞いたことが無いな」
「お前には聞いてないよ」
「・・・・」
ラウルはラドリックにぴしゃりと言うと、髪をかきあげた。
「・・・・昔話を聞いてもらおうか。俺はね、15の時までセビリアで暮らしていたんだ。船大工だった親父の背中を見ながら育った普通の子供だった。ただ・・・周りの同年代の子供達とはそりが合わなくってね、あんまり友達がいなかったんだ」
「まあ、その性格じゃいないだろうな」
「お兄ちゃん!黙って聞きなさい!」
「・・・わかったよ」
ソフィアの言葉にラドリックが黙る・・・ソフィアが目で促すと、ラウルは話を続けた。
「だから・・・俺の話相手は波やカモメ、そして・・・幼馴染のロレッタという女の子だけだったんだ。ロレッタとは幼馴染って言うだけで特に仲が良かったわけじゃない。ただ、体が弱くて外に出られなかったから、俺が色んな話をしてやったんだ・・・」
ラウルは目を閉じると更に話を続けた。
「港に泊まっている船の大きさや、ジブラルタル海峡の美しさ・・・俺が話してやるとロレッタは喜んで聞いてくれたもんさ」
「そうなんだ・・・」
「ロレッタは花が好きでね。ロレッタの親父さんが色んな花を買ってきたんだが、あれは・・・春だったかな、どうしてもある花が見たいって俺にせがんだんだ。その花は郊外の丘にある木に咲く花で、暖かくなるとその木一杯に花が咲くんだ。だから俺はロレッタをおぶってその木のある丘に行ったんだ。そして・・・」
「そして?」
「そして・・・俺とロレッタが見たのは辺り一面の桃色のカーテンだった。その木に咲く花で空の青や大地の緑が見えないんだ。俺とロレッタは地面に並んで座って、飽く事無く桃色のカーテンを見ていたんだ・・・・」
ソフィアはラウルの話に聞き入っていた。悪態をついていたラドリックも、いつの間にかラウルの話を真剣に聞いていた。
「ロレッタが言うには、その花は満開になると一気に散ってしまうらしい。そしてまた次の年の春になると一気に咲き乱れる・・・ロレッタは俺に「死ぬならこの花のように咲き誇ってから死にたいな・・・」と言ったけど、俺はまるで酒に酔っ払ったようにぼーっとしてしまって、ロレッタに何も言い返せ無かったんだ。そして・・・気がついたら夕暮れになっていた。俺は慌ててロレッタをおぶって帰ったんだが、親父にこっ酷く叱られたもんさ・・・そして・・・」
ラウルはそこで口を閉ざした。
「それで・・・それからどうしたの?」
ソフィアが水を向ける。ラウルは、覚悟を決めたように口を開いた。
「そして次の日・・・ロレッタの容態が急変した。俺はロレッタを元気付けようと、花を求めてその木のある丘に行ったんだが、既に花は散り始めて葉が芽吹いていたんだ。昨日あんなに咲き誇っていたのに・・・・」
ラウルが頭を振る・・・
「俺は嫌な予感がして急いでセビリアに戻ったんだが・・・戻ったときにはロレッタはもう・・・・・」
ラウルはそう言うと、テーブルを拳で殴った。
「俺があの時ロレッタを連れ出さなければあんな事にはならなかったかもしれないんだ!いくらロレッタが望んだからと言って、体の弱いあいつを連れ出さなければ!!」
「落ち着いてラウルさん、ロレッタさんが死んだのは貴方のせいじゃないわ!」
テーブルを叩き続けるラウルにソフィアはそう言った。
「・・・・・すまない。ちょっと取り乱してしまったようだ・・・今思えば、ロレッタは自分の死期を悟っていたのかもしれない。そして、最後の思い出に咲き誇ったあの花を見たかったのかもしれない・・・」
「・・・・で、ラウル。お前が探して欲しい花酔いの石って言うのはどんなものなんだ?」
ラウルの話を横で聞いていたラドリックがぶっきら棒に言った。その目尻が赤いのは気のせいだろうか・・・
「ああ、そうだったな。実はロレッタが死ぬ前に、花酔いの石が欲しいと言ったそうだ。その石を探して欲しかったんだ」
「自分では探さなかったのか?」
「勿論探したさ・・・俺はロレッタが死んだあと、家を出て船乗りになった。目的はロレッタが言っていた花酔いの石を探す為だ。しかし・・・どんな石かもわからなかった。結局新大陸まで来てこのザマだ・・・笑ってくれてもいい」
ラウルはそう言うと笑って見せた。陰のある笑いを・・・
「ソフィア、行くぞ」
「え?」
ラドリックはソフィアにそう言うと、席を立った。
「ちょっと待ってよお兄ちゃん!」
「ぐずぐずするなよ、まずは花酔いの石がどんなものかを調べなければならないからな」
「・・・・お兄ちゃん、それじゃあ!」
ラドリックの言葉にソフィアが満面の笑みを浮かべる。
「・・・・・引き受けてくれるのかラドリック・・・?」
「ああ、お前の事は気に入らないが、熟練の冒険者と見込まれてギルドに依頼された以上、それを断れば英国紳士の名が廃る・・・そうだな、ソフィア?」
「うん!」
「すまない・・・・頼む」
「ああ、任しておけ」
ラウルの言葉にラドリックは頷くと、ソフィアを促して港の方に歩き出した。その背中を見ていたラウルが、思い出したようにラドリックに声をかける。
「ラドリック、サントドミンゴのワイラに会ってみてくれるか?彼女にも船乗り達から情報を集めてくれるように頼んでいるから」
「わかった」
ラウルの言葉にラドリックは振り向かずに片手を上げて答えると、そのまま出航所に向かって歩き出した・・・・
It will continue next time.
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ラウルの純愛物語続きが気になりますwww
仕事やなんやで更新が遅れましたが、やっとこ
さ続きがアップできました。ご期待に沿う物か
どうか自信がありませんが、どうぞ読んでやっ
てください^^