2007年09月04日

花酔いの石(後編)

§1§



「ああ、ラウルさんが言ってた件ですよねー?」

ワイラはそう言うと、ラドリック達に向き直った。ポルトベロを出航したラドリック達は、ラウルが情報収集を依頼したワイラに結果を聞く為にサントドミンゴに来ていた。

「ここに来る色んなお客さんに聞いてみたんですけど、やっぱり皆さん聞いたことがないって言うんですよー」

ワイラはラドリックにそう言うと、とてもすまなそうな顔をした。

「そうですか・・・・やはりカリブには存在しないのか・・・」

ラドリックはそう呟くと、何かを考えるように俯いた。

「ワイラさん、どんなことでもいいの、何か関係あるような事を聞いてない?」

考え込むラドリックを押しのけるように前に出たソフィアが言う。

「そうですねー・・・あ、その石については何もわからなかったんですけど、ラウルさんが見たお花については面白い事を聞きましたよー」

「面白い事?」

「ええ、イングランド商船隊の船長さんに聞いたんですけど、そのお花は太陽の下だと青く光るんですって」

「青く光る・・・・?」

「はい、桃色と青が混ざって、凄くきれいなんだそうですよー?ロンドンの女性はみんな知ってるって言ってましたけど・・・ソフィアさん知らないんですかー?」

「ああ、ソフィアは女性と言っても」

「お兄ちゃん、黙ってて!」

「う・・・・」

ソフィアはラドリックを一喝して黙らせると、考え込んだ。

「桃色の花・・・青く光る・・・まさか!」

「何かわかったのかソフィア!」

「もしかしたら答えはすぐ近くにあるかもしれないわ・・・お兄ちゃん!すぐに出航しましょう!」

「出航って・・・どこに行くんだ?」

ソフィアの意図がわからず戸惑っているラドリックを引っ張るように出航所に向かおうとするソフィアにラドリックが問いかける。

「行き先は・・・私達の生まれ育ったロンドンよ!」

ソフィアはそう言うとワイラに頭を下げ、ラドリックを引きずるように、出航所に向かった・・・





§2§



「いらっしゃいま・・・って、ソフィアじゃない!久しぶりね!ラドリックさんもお久しぶりです」

ソフィアが酒場のドアを開けると、カウンターで皿を拭いていたアンジェラが、大きな声で二人を迎えた。昼間のせいか、酒場の中には客もまばらで、マスターもアンジェラの横で暇そうにグラスを磨いていた。

「ただいまアンジェラ!本当に久しぶりね!」

カウンターに駆け寄ったソフィアがカウンターから出てきたアンジェラと抱き合う。その姿は仲の良い姉妹のようだった。

「この前会ったのが新大陸に行くって言ってたあとだから・・・もう半年ぐらいかしら?久しぶりに帰ってきたんだからゆっくりしていけるんでしょ?」

「それがそうも行かないのよ、依頼を受けている最中だから」

アンジェラの言葉にソフィアが申し訳なさそうに答える。

「そうなんだ・・・折角一緒にLSLの演奏会でも聞きに行こうと思ったのに・・・お仕事じゃしょうがないわね」

「ごめんね、それで・・・今日はアンジェラに聞きたいことがあって来たの」

「私に聞きたいこと?」

ソフィアの言葉にアンジェラは不思議そうに小首を傾げる。

「ええ、昔、アンジェラに花にまつわる話を聞いたことがあったじゃない、それをもう一度教えて欲しいの」

「花にまつわる話・・・・もしかして『再会の花』の話?」

「そう、その話よ!もう一回私とお兄ちゃんの前でしてくれないかな?」

「ええいいわよ、立ち話もなんだから、二人ともそこの椅子に座って」

アンジェラはそう言うと、近くにあった椅子に座る。ソフィアとラドリックも近くの椅子に座った。

「これの話は元々うちのマスターに聞いた話なんだけど・・・」

アンジェラはそう前置きすると、話しはじめた・・・




§3§




「二人も知ってると思うけど、桜の花は春になると一斉に咲いて、あっという間に散ってしまうでしょ?だから、人によっては儚い花って言う人も居るんだけど、次の春には必ず咲くから、再会の花とも言われてるの」

「確かに桜は桃色の花を咲かせるな・・・ラウルが言ってた花って桜の事だったのか」

ラドリックの言葉にソフィアは頷くと、アンジェラに続きを促した。

「それでね、桜の木はこの辺りにも一杯あるんだけど、ロンドンの北の方に、晴れた日に青白く光る桜の木があって、その木の下では死別した人と再会できると言われてるのよ」

「なるほど・・・」

アンジェラの言葉にラドリックが頷く。

「で、その話を信じたマスターの古いお友達が、亡くなった奥さんにひと目会いたくてその木の下に行ったら・・・」

「行ったら・・?」

アンジェラが次の言葉を紡ぎ出そうとしたその瞬間、カウンターのマスターがアンジェラの話を遮った。

「アンジェラ、そろそろ店が賑わう時間だ。悪いんだが、肉屋のジムの所に行って、今日の分の肉を早く届けるように催促してきてくれるか?」

「あ、わかりましたマスター」

アンジェラはマスターの言葉に答えると、椅子から立ち上がった。

「ソフィア、ラドリックさん、ごめんね」

アンジェラは二人に謝ると、酒場を出て行った。

「酷いよマスター!話を聞いてる最中だったのに・・・」

ソフィアは椅子から立ち上がると、カウンターに近づいてマスターに食って掛かった。ラドリックも席を立ち、カウンターに近づく。

「悪いなソフィアちゃん。話の続きをするにはアンジェラが居ると不都合でな・・・」

「話の続き?」

ソフィアの言葉にマスターは頷いた。

「アンジェラが知っている話の続きは、俺の友人が亡くなった奥さんと再会するって筋書きなんだが、本当は違うんだよ」

「違うって・・・」

納得いかないソフィアにマスターは自分の口に指を立てて見せる。

「二人とも、アンジェラには内緒だぞ?実は青く光る桜の木と言うのは桜の花が青く光っているんじゃない。その桜の木の下にある岩が光っているんだ」

「岩が・・・ですか?」

ラドリックの言葉にマスターは頷くと、言葉を続けた。

「その岩は影や夜では光らないんだが、太陽の下だとぼんやり光を発しているんだ。その発光が非常に強くて、周囲の木や花まで照らしている岩が、ロンドンの北の方にあるんだよ」

「発光する岩・・・お兄ちゃんもしかして・・・」

ソフィアの言葉にラドリックが頷く。

「マスター、もしかしてその岩は『花酔いの石』と言うんじゃないですか?」

ラドリックの言葉に考え込むマスター・・・

「・・・花酔いの石か・・・・確かにあの光に照らされるとくらくらして、夢か幻か、不思議な感覚になると、俺の友人も言っていた。そいつは亡くなった奥さんをその青い光の中で見たような気がすると言っていたが・・・恐らくその岩の影響だろうな・・・しかし、花酔いの石か・・・うまく例えたもんだな」

「それでマスター、その岩はロンドンの北のどこら辺にあるんですか?」

感心するマスターにラドリックは問いかける。

「ああ、ロンドンとエディンバラの中間に入り江があるんだが、その奥の方にあるんだそうだ」

「なるほど・・・・マスター、感謝します」

ラドリックはそう言うと、マスターに頭を下げた。ソフィアも慌ててそれに習う。

「いやいや、役に立ったのなら良かった。だが・・・この話はアンジェラには内緒だぜ?アンジェラは俺の友人が一瞬だけでもなくなった奥さんと再会したと本気で思っているんだ。夢を壊したくはないからな」

「ええ、わかってます」

ソフィアはマスターの言葉に頷くと、ラドリックに向き直った。

「お兄ちゃん、行きましょう!そして、早くラウルさんを喜ばせて上げましょう!」

「よし、行こう」

マスターに別れを告げたラドリックとソフィアは、酒場の扉を開けて、出航所への道を急いだ・・・



§4§



「これが・・・・これが、花酔いの石・・・・」

ラウルは、ラドリックから手渡された石を両手で持って呟いた。絹のハンカチに包まれたその石は、カリブの降り注ぐ太陽の光に照らされて、青白く発光していた。

「ああ、恐らくこれが、お前の求めていた・・・そして、ロレッタさんが見たがっていた花酔いの石だと思う」

ラドリックはそう答えると、花酔いの石に関する話をラウルに聞かせた。ラウルは花酔いの石をみつめたまま、ラドリックの言葉を黙って聞いていた。そして、ラドリックの説明が終わると、ラドリックを見据えた。

「ラドリック・・・・すまなかった」

ラウルはそう言うと、ラドリックに頭を下げた。

「おいおい、お前らしくもないじゃないか」

突然の出来事に慌てるラドリック。

「いや、正直言って、お前がこの石を持って来てくれるまで、俺は半分諦めていたんだ。今まで他の冒険者にも何回か頼んで見たが、手がかりさえも見つからなかったし、船員として乗り込んだ船の船長にも協力を頼んだが、ありものしない物をと無下に断られた・・・・だから、なんの苦労も知らないお坊ちゃん育ちのお前に見つけられるわけがないと、どこか心の中で思っていたのさ」

「なんだと!」

ラウルの言葉にラドリックが激昂しかける。

「しかし、俺は間違っていたよ。お前はソフィアちゃんは、俺の話と少ない情報を頼りに、海を越えてこの石を探し出して持ってきてくれた・・・そう、例えこの石がロレッタの求めていた花酔いの石ではなくても・・・・ほんとうにすまなかった」

そう言うと、ラウルはもう一度頭を下げた。

「気にするなよ、依頼人の満足する結果を出すのが冒険者としての、そして英国紳士としての務めだ」

ラドリックはそう言うと後ろを向いた。

「お兄ちゃんったら照れちゃって〜」

ソフィアがラドリックを茶化す。

「う・うるさい!」

そのやりとりを見ていたラウルは寂しく微笑むと呟いた。

「・・・・もし俺がお前の船に乗っていたら・・・こんな所で酒場の手伝いをしてる事も無かったかもしれないな・・・・」

「うん?なんか言ったか」

「いや、なんでもない」

ラドリックの言葉にラウルは答えると、そばにあったテーブルに花酔いの石を置くと、酒場のマスターの所に行った。そして数分後・・・話が終わったのか、ラウルは再び二人の前に戻ってきた。

「ラドリック・・・・あつかましい願いだとはわかっているが、もうひとつ頼まれてくれないか?」

ラウルは真剣な眼差しでラドリックを見た。

「なんだ?言ってみてくれ」

ラドリックの言葉にラウルは頷くと、言葉を続けた。

「俺を・・・お前の船に乗せてくれ。そして・・・セビリアに連れて行って欲しい」



§5§




「ロレッタ・・・・帰ってきたよ・・・・・」

ラウルは桜の木の下にある小さな墓の前に跪くと、小さく祈りを捧げた。ラウルを船に乗せたラドリック達は、ポルトベロから可能な限りの速度でセビリアに向かった。そして、セビリアの郊外にの桜の木の下にあるロレッタの墓の前に来たのだった。

「ずっと来なくて悪かったな・・・お前に花酔いの石を見せてやろうと思って探し回っていたんだが、結局俺一人の力では探し出せなかったんだ」

ラウルはそう言うと、懐から絹のハンカチに包まれた花酔いの石を取り出して、ロレッタの墓の前に置いた。

「でも・・・後ろに居るラドリックとソフィアちゃんが一生懸命探してくれて、やっと持ってくることができたんだ。もしかしたらこの石はお前が求めていた石じゃないかもしれない・・・その時は勘弁してくれよ?」

墓に語りかけるラウルの目から涙が零れ落ちる・・・・その雫が花酔いの石に当たったその時、太陽の光で鈍く光っていた花酔いの石が強く輝き、辺りは光に包まれた。

「きゃっ!」

「こ・これは!!」

あまりの輝きに一瞬目を瞑ったラドリックとソフィアが目を開けた時、辺りの景色は一変していた。散ってしまっていた桜の木々には桃色の花が咲き誇り、まるで桃色のカーテンに包まれているようだった。

「お・・・お兄ちゃん!あれ!!」

あまりの事に呆然とするラドリックの腕をソフィアが叩く。ソフィアが見ている方を見たラドリックが見たものは・・・・美しい女性と抱き合っているラウルの姿だった。女性は優しそうな微笑をラウルに向け、ラウルは目から涙を流しながら微笑んでいた。

「これが・・・・花酔いの石の力・・・・」

ソフィアが二人を見て呟く。

「ああ・・・恐らくそうだろう。花酔いの石は幻影を見せる・・・例えそれが一瞬の夢であっても・・・・」

「ええ・・・そうね・・・・」

ラドリックの言葉にソフィアが頷く。二人のみつめる先には、一瞬たりとも離れまいと、お互いを抱きしめる一組の恋人の姿が、桃色のカーテンに包まれていた。そう・・・まるで一枚の絵のように・・・・


fin
posted by ラドリック at 23:00| Comment(3) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
。・゜゜・o(iДi)o・゜゜・。うぇぇん
良い話やないか・・・・純愛ヤネ

オチがあったらどないしようと思ったが・・・良かったwwwww桜の木の下で再会・・・(* ̄。 ̄*)
Posted by エデン at 2007年09月05日 00:38
( ;∀;) イイハナシダナー
Posted by Sora at 2007年09月08日 15:12
体調不良のためコメントが遅れて申し訳ありま
せん(汗

>エデンさん

流石にオチをつけるわけには行きませんでした。

オチのある話はまた今度という事でw

>Soraさん

いい話だと思っていただけたなら幸いです。当分
こういうタイプの話はいいかなぁ・・・w
Posted by ラドリック(管理人) at 2007年09月16日 21:58
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