2007年09月24日

老兵は死なず §後編§

§1§



イスパニアの領土であるパルマの出航所に、三隻の帆船が停泊していた。船型はキャラックだろうか・・・遠目からでは分からないが、その船体には無数の傷が刻まれていた。

「・・・・この船と共に戦って何年になるかの・・・・それも今日で終わる・・・・か」


三隻あるキャラックの中でも一番古い船の甲板で、その男は呟いた。男はその船の船長だろうか、くたびれたパイレーツコートに身を包み、船体に刻まれた傷を指で撫でた。

「艦長、全艦出撃準備整いました」

副長らしい男が敬礼をして報告する。男はその報告に頷くと、甲板上に並ぶ船員達に向き直った。

「諸君、我が部隊はこれよりアルジェ沖に停泊しているバルバリア海賊の主力の一部を叩く為に出撃する。諸君等も知っている通り、我が部隊と敵の戦力差ははっきりしており、敵艦隊に打撃を与えるどころか生還もおぼつかんじゃろう・・・」

男は言葉を一旦区切ると、船員達を見渡した。どの船員の顔にも緊張が見て取れた。

「わしは軍上層部に疎まれた身だ、退役前のこの命をここで捨てても惜しくはない。しかし、諸君等はわしの様な老いぼれに付き合う事はない。希望者は退艦を許可するので前に出てくれ。なに、心配は要らん。疎まれているのはわしだけじゃから、諸君等が艦を降りても罪に問われないように、わしから上層部に具申しておくから、安心して名乗り出てくれ」

そう言うと、男は再び船員達を見渡した。船員達の顔はどれも緊張していたが、退艦を名乗り出る者は一人も居なかった。

「パブロ・アルベニス艦長、我ら全員、最後まで艦長のお供をする所存です。二番艦、三番艦の艦長からも、同様の返答が来ております」

船員達の思いを代表して、パブロの横に控えていた副長が言った。

「・・・・・・どいつもこいつも大馬鹿者じゃな・・・」

そう呟くパブロの頬に熱い物が流れる・・・

「諸君等の気持ちはわかった。諸君等の命・・・・わしが預かる!総員配置につけ!」

パブロの号令に船員達は歓声を上げると、敬礼を返して持ち場に散った・・・・




§2§




パルマを出航したパブロの部隊は南下を続け、アルジェ沖に停泊しているバルバリア海賊の艦隊に決戦を挑んだ。夜陰に紛れての攻撃が幸いし、当初は戦況を有利に展開していたパブロ達だったが、朝日が昇る頃になると、戦力に余裕のあるバルバリア艦隊が反攻に転じた。

「二番艦に直撃!」

その声にパブロが右を見ると、二番艦が黒煙を吹き上げながら退避行動に移る所だった。二番艦の船腹には大きな穴が穿たれ、浸水こそしていないものの、これ以上の戦闘継続は不可能に思えた。

「信号手!二番艦にそのまま海域を離脱するように信号を送るんじゃ、あの被害状況では戦闘続行は無理だからの!」

「アイ・サー!」

パブロの言葉に信号手が二番艦に信号を送った。信号を受けた二番艦は、迫り来るバルバリア海賊のガレーに牽制砲撃を加えながら離脱していく。

「副長!三番艦の方はどうじゃ?」

パブロの言葉に副長は左舷を見る。そこには大型ガレーに接舷されている三番艦の姿があった。

「白兵戦になっているようですが・・・・斬り込み隊の数が違います。恐らくは・・・・」

報告しながら三番艦の方を見ていた副長が言葉を飲む・・・・三番艦のマストに掲げられていたイスパニア国旗が降ろされたからだ。それは、その船が完全に制圧された事を意味する。

「・・・・いよいよこの艦だけになったか・・・・」

パブロは一人呟いた。その間にもバルバリア海賊のガレーは、獲物に群がる狼のように、パブロの乗艦に迫ってくる。

「副長、敵の旗艦はどれか判るか」

「はっ・・・・恐らくあの大型ガレーだと思われます」

パブロの言葉に副長が一方を指差す。そこには敵の旗艦らしき大型ガレーが居た。パブロはその大型ガレーを一瞥する。

「・・・・ここからでは届かんか・・・・・」

「艦長・・・残念ですが・・・・」

パブロの言葉に副長が唇を噛締めながら答える・・・その時、辺りを警戒していた水夫が叫んだ。

「敵の右舷に新たな船影!数は2隻!」

「・・・・・どうやらここまでじゃな、総員退艦せよ!」

「艦長!」

パブロの言葉に副長が叫ぶ。パブロは副長の肩に両手を置くと、副長に語りかけた。

「副長、お前さんは船員達を連れて退艦するんじゃ、今ならまだ間に合う」

「ですが!」

「これが最後の艦長命令じゃ・・・頼む・・・・」

「艦長・・・・」

パブロの言葉に副長は頷く。その時、船員の叫びが再び船上にこだました。

「新たに現れた船が、バルバリア海賊のガレーを攻撃しています!」

「何だと!」

その声にパブロと副長は船員が指差すほうを見る・・・そこには、バルバリア海賊のガレーを砲撃する二隻の船の姿があった・・・



§3§



「砲弾は敵ガレーに全弾命中しました!」

Band of lightの放った砲弾を船体に受けたガレーは、火薬庫に砲弾が命中したのであろう、小規模な爆発を繰り返しながら、ゆっくりと海中に沈んでいく。

「どうやら間に合ったようだな・・・」

ラドリックは沈み行くガレーを見ながら呟いた。王宮前で軍人と別れたラドリックとAbelは補給もそこそこにセビリアを出航し、可能な限りの速度でアルジェ沖を目指したのだった。

「ロイ!イスパニア艦隊の様子は!」

ラドリックの言葉にロイが小手をかざして辺りを見回す。

「一隻は拿捕されたようです、一隻はこの海域を離脱する模様!」

「ということは・・・・残った一隻がパブロさんが乗った旗艦か・・・」

「Abel船長の船が、離脱するイスパニア船の援護をするようです!」

「よし、その船はAbel神父に任せて、俺達はイスパニア艦隊の旗艦を救出するぞ!」

ロイの言葉にラドリックは頷くと、各所に指示を出した。その指示によってBand of lightはパブロの船を目指す。しかし、一時の混乱から立ち直ったバルバリア艦隊は、Band of lightの針路を塞ぐように船を展開させる。

「ぼっちゃん、どうやらあちらさんはイスパニア艦隊との合流を阻止するつもりのようですぜ?」

「どうやらそうらしいな。しかし、それはこちらの思うつぼだ」

エドの言葉にラドリックは答えると、甲板で所在なさげにうろついているディックに声をかけた。

「ディック!敵艦隊は白兵戦を仕掛けてくるかも知れん。斬り込み隊の連中に準備をさせておけ!」

「了解しました!」

ラドリックの言葉にディックはうれしそうに答えると、船内に消えていった。

「まったく・・・あいつは本当にドンパチが好きだな・・・」

船内に消えていったディックを見ながらラドリックが呟く。

「ぼっちゃんも人の事は言えないんじゃないですかい?まあ、あっしも人の事は言えませんがね」

「まったくだ」

エドの言葉にラドリックは苦笑する。そうしている間にも、バルバリア艦隊はパブロの船を置き捨てて、Band of lightを包囲するように展開する。

「船長、次弾装填完了しました!」

「よし!こちらの右舷に迫っている敵艦に一斉射の後、正面のガレーに突っ込むぞ!」

ラドリックは砲術長のエルウッドに命令を下すと、その場指揮をエドに任せて、自分も白兵戦の準備をする為に船内へと歩を進めた・・・



§4§




「どうやら助けられたようだの、礼を言わせて貰う」

パブロはそう言うと、Abelとラドリックに頭を下げた。二時間に及ぶ激しい戦闘の末にバルバリア艦隊の旗艦を制圧したラドリックは、同じく二番艦の撤退の援護を終えたAbelと共に、パブロの船に乗り込んでいたのだった。

「しかし・・・・イングランドの方が何故わしらを助けてくださった?見た所、たまたま通りかかったわけではなさそうじゃが・・・」

「国の間でいくらいがみ合っていても、航海者の間ではそんな事は関係ありません。まあ、大海戦の最中であれば話は少し変わってきますが・・・・」

「それに、私達は依頼を遂行しただけですから」

「依頼・・・・?」

Abelの言葉に訝しがるパブロ。

「ああ、貴方の幼馴染のホセさんからの依頼で、貴方を探していたのです。そして、貴方の行方を捜している途中で貴方がバルバリア海賊に玉砕覚悟の攻撃を仕掛ける事を聞いたのです」

「ホセが・・・・?しかし、あんた達が請け負ったのはわしの行方を捜す事だけじゃろうに・・・・それが危険を冒して何故・・・」

「王宮で貴方の下で戦っていた軍人に頼まれたのですよ。まあ、強引に受けたとも言いますが・・・」

ラドリックはそう言うと頭を掻いた。

「・・・・・そうか、ホセが・・・・恐らくあんた達が王宮前で会った軍人はペドロの事じゃろう・・・・そうか・・・あの二人が・・・」

パブロはそう言うと視線を落とした。それはまるで、自分の身を案じてくれた二人に頭を下げたようだった。

「パブロ艦長、帰港準備が整いました」

船の損傷箇所を点検していた副長がパブロの横に立って報告する。パブロは顔を上げると、副官に向き直った。

「副長、ご苦労じゃが、この船をパルマまで持って帰ってくれるか」

「それは勿論ですが・・・艦長は?」

「わしは今日を持って軍を退役する。遅かれ早かれ退役するか戦死するかだった命だ、こちらの方々のお陰でバルバリア艦隊も撃滅できた事だし、軍上層部も文句は言わんじゃろう」

「しかし艦長!」

「副長、わしはもう年だ・・・今からはお前さんのような若者の時代じゃ。どうか、イスパニアの為に尽くしてくれ」

パブロはそう言うと副長に敬礼した。副長は涙で顔をべちゃべちゃにしながら敬礼を返す。そして、パブロはラドリックたちに向き直った。

「お若いの、頼まれついでにもうひとつ頼まれてくれんかの?」

「なんでしょう?」

「すまんがわしをセビリアまで乗せていってくれ。この場で退役と宣言しても、手続きは踏まねばならんからの・・・軍だけではないが、組織というものは色々と面倒が多くていかん・・・ホセに会うのはその後じゃ」

「判りました、喜んでお送りしましょう」

ラドリックの言葉にパブロは軽く頭を下げると、言葉を続けた。

「失礼じゃがお若いの、お前さんたちの名前は?」

「私はイングランドの航海者、ラドリック・ガーランドです」

「私はAbelといいます。神の教えを広める為に、大海に身を置いています」

「なるほど・・・・」

二人の答えにパブロは頷いた。

「では、参りましょうか」

ラドリックがパブロをBand of lightへと誘う。

「了解じゃ、すまんがすぐに行くので先に船に戻っていてくれんかの?」

「わかりました」

パブロの言葉にラドリックとAbelは頷くと、それぞれの船に向かった。そして、甲板にはパブロだけが残った。

「・・・・・」

パブロは近くにあるメインマストに手を置くと、愛しそうに撫でた。

「すまんが先に休ませて貰うぞ、お前も元気でな・・・・」

パブロはそう呟くと、マストに背を向けて、Band of lightが接舷している方へ歩み始めた・・・・・


posted by ラドリック at 21:00| Comment(2) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
カッコイイッス
キャー♪ o(>▽<*)(*>▽<)o キャー♪


Posted by エデン at 2007年09月29日 01:12
>エデンさん

返事が遅れてすいません。色々と忙しかったも
ので・・・

今回は執事クエに絡めてみました。実際はもっ
と渋く書きたかったのですが、中々うまくいか
ないものです^^;
Posted by ラドリック(管理人) at 2007年10月07日 21:21
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