2008年02月12日

亀裂 §前編§

§1§



「坊ちゃん、パブロ提督から手紙が来てますぜ?」

「パブロさんから?」

ロンドンのアパルタメントで久しぶりの休息を取っていたラドリックは、手紙を届けに来たエドに問いかけた。

「ええ、坊ちゃん宛にとさっきサントドミンゴから帰ってきた商船隊の船長が船に届けてくれたんでさ」

エドはラドリックにそう答えると、手紙を差し出した。ラドリックは、読みかけの本を机に置くと手紙を受け取り、ペーパーナイフを使って手紙を封を開ける。

「確か、パブロ提督はAbel船長の所に居るんでしたね?」

「ああ、そうだ。いつもならAbel神父のアパルタメントに居るはずなんだが・・・・」

元イスパニア海軍提督パブロ・アルベニスは、ラドリックとAbelがかかわった一件で軍を退役した後、Abelの懇願に応えてAbelの執事として第二の人生を送っていた。本来執事というものは、主人の居ないアパルタメントの管理をするのが役目なのだが、パブロはAbelと共に時々航海に出ているのだった。

「しかしカリブか・・・・パブロさんは執事と言うより副官だな・・・」

ラドリックは苦笑しながら封筒の中から手紙を取り出し目を通した。そして一通り目を通すと、手紙を机に置いた。

「パブロ提督はなんて言ってきたんですか?」

「昔パブロさんの指揮下に居た軍人がイスパニア海軍を辞めたらしい。腕は保障するので俺の船で雇ってくれないかと言ってきてる。この手紙が届く頃にはこっちに着くだろうから、試してみてくれ、ということだ」

エドの問いかけにそうラドリックは答えた。

「なるほど・・・・パブロ提督のお墨付きなら腕の立つ野郎なんでしょうね」

「ああ、イスパニア海軍の中でもカリブ方面で私掠艦隊に所属していたらしい」

「ほう・・・・それは頼もしいじゃないですか、そいつが来ればあっしもディックも楽ができるってもんでさ。それにロイのやつの希望にも・・・」

「ああ・・・・・それはそうなんだが・・・」

「どうしたんです坊ちゃん?なにか不都合でもあるんですかい?」

いつになく乗り気でないラドリックの態度に不審を覚えたエドが問いかける。その問いかけにラドリックは頭を掻きながら答えた。

「それがな・・・・・その軍人というのが・・・・女性らしいんだ・・・・」

「お・・・おんなぁ!?」

エドの驚きの声が室内にこだました・・・・



§2§



「・・・・暇だなぁ、ロイ」

「兄貴は暇でしょうが、俺はそこまで暇じゃないんですよ」

桟橋に泊まっているBand of lightの上で、ディックとロイは言葉を交わしていた。ディックは酒瓶を片手に暇そうに甲板に寝転んでいるが、ロイはなにやら難しそうな本を読んでいた。

「暇じゃないってお前、さっきからその本をずっと読んでるだけじゃねぇか。一体何の本なんだ?」

「ああ、これですか?船長から借りた本なんですけどね」

ロイはそう言うと、ディックに表紙を見せた。そこには「地理学入門」と書かれていた。

「地理学入門・・・?ってロイ、お前いつからこんな本を読んでるんだ?」

ディックの問いかけにロイは恥ずかしそうに微笑んだ。

「あれはいつだったけな・・・船長の知り合いの船長方と艦隊を組んでカリブの方に行ったことがあるじゃないですか。あの時に見た景色が忘れられなくて・・・俺にも船長の冒険の手伝いができないかなと思いまして・・・・」

「なるほどなぁ・・・・確かに地理学は航海する為に必要な知識だしな・・・・まあ、俺はまったく興味はないが・・・・」

「兄貴も読んでみたらどうですかい?」

そう言って本を差し出すロイをディックは手を振って制すると、ウィスキーをあおった。

「俺はいい、そんな小難しい本を読むと頭が痛くなる」

そうディックは言うと、再び甲板に寝転んだ。

「そうですか?面白いんだけどなぁ・・・」

ロイはそう言うと、再び本を読み出した。そしていくばくかの時間がたったその時、タラップの方から足音が聞こえてきた。

「誰か居ないのかい!」

その声にディックとロイがタラップの方を見る・・・そこには一人の女が立っていた。その女は頭にバンダナを巻き、くたびれたパイレーツベストを身に纏っていた。女はディック達を見つけると、近づいてきた。

「あんたらこの船の航海士かい?」

「ああ、そうだが・・・・あんたは?」

「あたいはニーナ・ランディス、今日からここで厄介になるよ」

ディックの問いかけに女は挑戦的な瞳をディックに向けるとそう言った。

「厄介になる・・・?俺はなんも聞いてねぇぞ?ロイ、お前なんか聞いてるか?」

「いいえ、俺も何も聞いてないですぜ兄貴」

「なああんた、なんかの間違いじゃねぇか?この船はラドリック船長のBand of lightだぜ?」

ディックの問いかけにニーナは首をかしげた。

「おかしいね・・・あたいはパブロのおやっさんの紹介でこの船に来たんだけど・・・・あのおっさんボケたかな・・・」

「パブロのおっさん・・・・?あんた元イスパニア海軍のパブロ・アルベニス提督の知り合いか?」

「パブロのおやっさんを知ってるのかい!じゃあここで間違いないね。早速で悪いんだがラドリック船長に会わせておくれ」

「悪いな、今船長はアパルタメントに戻っていてここにはいないんだ。すぐに呼びに行かせるからちょっと待っててくれ。ロイ、悪いが船長を呼んできてくれ」

ディックの言葉にロイは頷くと、タラップを降りていった。

「しかしあんた、この船には一般の航海士として来たのかい?」

「・・・・ほんとに聞いてないのかい?」

「ああ、少なくとも俺は何も聞いてない」

ディックの言葉にニーナは軽く首を振った。

「その面構えからしてあんたも切り込み隊の人間だろ?あたいはあんた達の纏め役としてここに来たんだよ」

「はぁ?」

ニーナの言葉にディックは思わず間抜けな声をだした。

「聞こえなかったのかい?今日からあたいがこの船の甲板長なんだよ」

「ちょ!!ちょっと待て!このBand of lightの甲板長はこのディック・ウォレンだ!」

ディックの叫びに今度はニーナがしばし呆然とする・・・そして、ディックを指差し笑い始めた。

「あっはっはっは!あんたがこの船の甲板長だって?冗談はその顔だけにしときなよ!」

「なんだと!!」

「パブロのおやっさんからこの船の事は聞いてたんだよ。おやささんの危機を救ってくれた凄腕の船長と船員達だってね!だからそこを紹介してくれるっておやっさんに言われたときには、甲板長が何かで船を下りたかおっちんだかして、その代わりが必要なんだろうと思ってたんだが・・・まさかあんたみたいなのが甲板長とはね!」

「てめぇ・・・・好き勝手な事を言いやがって!大体、パブロ提督から甲板長の代わりが欲しい船があるって紹介されたのかよ!」

「う・・・・・」

ディックの言葉にニーナは一瞬たじろいだ。確かにパブロにこの船を紹介してもらったが、甲板長にと言うのはニーナの勝手な思い込みだったのだ。しかし、ニーナはそれをおくびにも出さず言い放った。

「仮にそうじゃなくてもあたいはカリブで私掠艦隊の甲板長を務めてたんだ!丁度いい!ここであんたを叩きのめして実力で甲板長になってやるよ!抜きな!」

「てめぇ・・・・いい覚悟じゃねぇか!!」

ニーナの言葉に激昂するディック・・・二人は同時に腰の剣を抜くと、間合いを取った。騒ぎを聞きつけたのか、周りには水夫達の人垣ができる。そして・・・・・二人の戦士は同時に動いた・・・・



It will continue next time.






§次回予告§



男と女は船上で踊る・・・舞踏と言うにはあまりにも美しく、壮絶なダンスを。そして、第三の男が放った一言によって、亀裂は更に深くなる・・・・

次回、彷徨えるイングランド人 『亀裂 §中篇§』

七つの海を駆ける航海者達の物語が、またひとつ紡がれる・・・・
posted by ラドリック at 21:48| Comment(2) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ニーナってより、盗賊副官のおねーちゃんのような口調ですねぇ。かわいいけど。

そして、その予告はちょっとw
なんか銀○伝風味っぽいよーな感じがします。
Posted by レヴィ at 2008年02月13日 00:40
>レヴィさん

コメントが遅れてすいません(汗

私がイメージするキャラ設定だと、丁度サラ(
宝石商のカーラ)とニーナ(広域海賊のニーナ)
の口調が丁度逆転するんですよ。

予告に関しては・・・・勿論○英伝をパクって
おりますw
Posted by ラドリック(管理人) at 2008年04月07日 21:48
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