2008年03月19日

亀裂 §中編§

§1§


「さあかかってきな!甲板長さん!」

「その減らず口を黙らせてやる!」


強い日差しが照りつけるBand of lightの甲板で、二人の戦士は同時に動いた。放たれた斬撃が、太陽の日差しを浴びて交差する。

「このBand of lightの甲板長は俺だ!それが俺の誇りだ!それをお前のような奴に譲れるものかよ!」

ディックはそう叫ぶと、ニーナに向けて力強い斬撃を加えた。しかし、手加減のないその斬撃を、ニーナは華麗とも言える体捌きでかわす。

「はっ!こんな大振りな剣術で甲板長だって?聞いて呆れるね!」

「何を!」

「本当の剣術ってのはこういうのを言うのさ!」

ニーナはそう言うと、ディックに向けて、矢継ぎ早に斬撃を浴びせた。ディックの剣を燃え盛る炎に例えるならば、ニーナの剣は風・・・恐らく正式の剣術を学んでいるのだろう、フェイントを加えた斬撃にディックは翻弄される。

「くっ!ちょこまかと・・・」

繰り出される斬撃を受け止めつつ、ディックは反撃の機会を探っていた。確かにニーナの隙のない連続攻撃はディックを翻弄している。しかし、一つ一つの攻撃は軽いのだ。

「どうしたんだい甲板長さん!足が止まってるよ?もうおねんねかい!」

ニーナは攻撃を繰り出しながらディックを嘲弄する。しかし、ディックは黙ったまま攻撃を受ける事に専念していた。

「これで終わりさ!!」

ディックが反撃しない事を好機と捉えたのだろう、ニーナは一歩踏み込んでディックに鋭い斬撃を繰り出した。そして、その斬撃がディックを捕らえたかと思われたその瞬間、ディックは斬撃をよけるのではなく、ニーナに向けて一歩踏み込んだ。

「待ってたぜ、この瞬間をな!」

「な・なんだって!」

ディックが前に踏み込んだ事によって、ニーナの斬撃は空を切る。そして、ディックはそのままニーナに体当たりを食らわせた。その衝撃でニーナは後ろに倒れこんだ。ディックの肩が胸に当たったのだろう、すぐには起き上がれず苦悶の表情を浮かべる。

「所詮は女だな、力では男に敵わない事がわかっただろう!」

そう言いながら見下ろすディック・・・・しかし、ニーナはディックを睨みつけると、ディックに向けて唾を吐いた。

「はっ!まだ勝負は終わっちゃ居ないよ!ごたくを並べる前にさっさとかかってくりゃどうだい!」

「こいつ!!」

ニーナの言葉に激昂したディックは、まだ起き上がれていないニーナに襲い掛かった。しかし、ニーナは素早く体を起こすと、ディックの足に足払いをかけた。ディックはバランスを崩して顔から甲板に倒れこむ。

「ぐっ・・・」

「甲板長!あんたはとんだ甘ちゃんだね、敵の戦闘力を奪うまでは攻撃の手を休めない、それが戦いの基本だろう?さっさと立ちな!決着をつけてやるよ!」

ニーナは倒れこんでるディックを罵る。ディックは素早く立ち上がると間合いを取った。

「それはこっちの台詞だ!もう手加減はしねぇ、次で終わらせてやる!」

再び剣を構えた二人は、間合いを取りながら相手の様子を伺う・・・・そして、二人は同時に斬撃を放った・・・・・



§2§


しかし、二人の斬撃は相手には届かなかった。二人の間にラドリックが割って入ったからだ。

「二人ともそこまでだ!剣を引け!」

ラドリックは両手に持った剣で双方の剣を受け止めながら叫んだ。ラドリックの叫びに、二人は慌てて剣を収める。

「ディック、これはどういうことなんだ?船上での私闘は禁止しているはずだぞ!」

「せ・船長、これは私闘じゃないですよ!このニーナって女がうちの船に乗りたいって言うから実力を試していたんでさ」

ラドリックの詰問にディックは慌てて答える。正直に答えなかったのは、船上の私闘はどんな理由があろうと厳罰に処されるからだった。そして、その答えを聞いたラドリックはニーナの方を向いた。

「貴方がパブロさんの手紙に書いてあった、ニーナ・ランディスさんですか?私がこのBand of lightの船長のラドリック・ガーランドです。早速ですが、うちの甲板長のディックが言っている事は本当でしょうか?」

「え・ええ、甲板長はあた・・・いや、私の腕前を見るために自ら手合わせをしてくださったんですラドリック船長」

ラドリックの言葉にニーナも慌てて答える。ラドリックはニーナの答えを聞くと、無言のまま、何かを考えるようなしぐさを見せた。そして、急に大声で笑い始めた。

「坊ちゃん、何がおかしいんですかい?」

エドの言葉にラドリックは笑うのをやめると、エドの方を向いた。

「これが笑わずにいられるか、あのディックが新人を試す為に剣の手合わせをしたと言うんだぞ?いつもはめんどくさがってロイに任せっきりにするディックがだぞ?」

ラドリックの言葉にエドは頷く。

「確かにそうですね・・・・・ということは!」

「ああ、そうだ。大方売り言葉に買い言葉で私闘になったんだろう」

ラドリックはそう言うと、鋭い眼光で二人を見回した。

「すいません、船長・・・・」

「何があったかは知らんが、今回は不問にする。それで・・・ニーナさんの腕前はどうだった?」

「そ・それは・・・・」

ラドリックの言葉にディックは言いよどむ。

「その様子だと、合格のようだな」

ラドリックはそう言うと、再びニーナの方を向いた。

「歓迎しますよニーナさん。どうかこれからもよろしくお願いします」

頭を下げるラドリックにニーナは慌てて手を振ると、姿勢を正した。

「ラドリック船長、船長のお話はパブロのおやっさ・・・いや、提督から聞いていますが、これからはニーナと呼び捨てにしてください。船長である貴方が女性とはいえ、航海士を呼び捨てにできないようでは乗組員に示しがつきませんから」

ニーナの言葉にラドリックは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに表情を引き締め頷いた。そして集まった船員達を見回すと、言葉を放った。

「みんな、聞いての通りだ!ニーナは俺達と縁のあるパブロ提督の下で戦っていた歴戦の勇士だ、よろしく頼む。それと・・・・」

ラドリックはロイの方を見ると言葉を続けた。

「これを機に、ニーナには副甲板長を務めてもらう。そして、ロイは俺の直属に回ってもらう」

ラドリックの言葉に船上は静まり返った。しかし、その静寂はディックの叫びによって破られた。


「ちょっと待ってくれ!俺は納得いかねぇ!」

ディックはそう叫ぶとラドリックの前に出た。

「俺とロイは海軍にいたころからコンビを組んでやってきたんだ!船長もそれは承知の上で俺達を迎えてくれたんじゃなかったのか!」

「ああ、そうだ。しかし、これはロイの希望でもあるんだぞ」

「なんだって!おいロイ!それは本当なのか!」

その言葉にディックはロイに詰め寄った。

「すいません兄貴・・・」

「何でだ!俺に何か不満があるってのか!」

「ち・違いますよ、兄貴に不満があるわけでも、副甲板長の地位に不満があるわけでもないんですよ」

「ならなんで!」

「それは・・・・」

ディックの剣幕に押されそうになりながらも、ロイははっきりと言葉をつむいだ。

「それは、さっき兄貴にも言ったと思いますが、俺はラドリック船長にお願いして地理学の勉強をしたいんです。兄貴も知っての通り、俺の剣の腕前は普通よりちょっといいぐらいです。ニーナさんが来てくれた以上、俺も安心して船長にお願いできるんです」

「ロイ・・・・」

「さっきも話しましたよね、カリブで見た景色が忘れられないって・・・・俺は地理学を勉強して、少しでも船長のお役に立ちたいんですよ」

「どうだディック・・・・ロイの気持ちをわかってやれないか?」

ロイの言葉を聞いて無言で立ち尽くすディックに、ラドリックが声をかける。

「・・・・・・・・いかねぇ・・・」

「・・・?」

「納得いかねぇ!!!」

「ディック・・・」

「俺はこんな奴を副甲板長に認めねぇ!俺の相方はロイだけだ!」

ディックはそう叫ぶと、夢遊病者のような足取りでタラップに向かって歩き出した。その態度に激したラドリックがディックの背中に言葉を叩きつける。

「ディック!俺の命令に従えないというのなら、覚悟はできているんだろうな!」

ラドリックはそう言って思わず顔をしかめた。言って失敗したと思ったのか、手で口を押さえる。


その言葉に、ディックはタラップの端で立ち止まると、ラドリック達の方に振り向いた。

「・・・・・・こんな船、こっちから降りてやるよ・・・・」

ディックはそう言うと、タラップを降りていった・・・・・・


It will continue next time.






§次回予告§




群れから離れた狼は、安らぎの場所を求めて彷徨う・・・それがどんなに哀しく愚かな行為かわからぬまま・・・・

深く穿たれた溝は埋まる事があるのだろうか・・・・

次回、彷徨えるイングランド人 『亀裂 §後編§』

七つの海を駆ける航海者達の物語が、またひとつ紡がれる・・・・
posted by ラドリック at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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