2011年06月01日

因縁の結末 §後編§

§1§



「あれから何日が経ったかな・・・・」

ディックは薄暗い部屋の天井を見ながらそう呟いた。アルはあの日以来顔を見せて居なかった。この部屋に来る者といえば日に一度、水夫が食事を持ってくるだけだった。

「どうせ殺すなら飯なんか持って来なけりゃいいのに・・・なまじっか食うと、後で腹が減るじゃねぇか・・・」

ディックはそう言うと頭を振った。頭の中で交錯する色々な思いを振り切るように。

「いくら船長が御人好しでも来るわけがねぇ・・・もう俺はお払い箱なんだからな・・・・・」

何故こうなったのか?パズルのピースが1つ合わないような不快感。だが、それは誰のせいでもない。それはディックが一番よくわかっていた。原因は誰でもない、自分にあったのだから・・・・

そのディックの思考を止めたのは扉の開く音だった。ディックが扉の方を見ると、二人の男が入ってくる所だった。一人はいつも食事を持ってくる水夫、そしてもう一人は・・・・

「おい、何黙りこくってるんだ?こんな所に閉じ込められて気が変になったか?」

「けっ!そう簡単に気が変になるかよ!さっさと飯を置いて行っちまえ!」

そう言う男の後ろで口元で指を立てて見せる男・・・ギムを見ながらディックはそう言った。

「言われなくてもそのつもりだぜ、何が楽しくてこんな臭い部屋に長居するかよ!おい、フレッド!あとは頼むぞ!」

「はい、ハサンさん」

フレッドと呼ばれたギムはハサンに答えると、食事の置かれたトレイを持って部屋の中に入った。それと入れ替わりにハサンが部屋を出て行く。

「フレッド、それが終わったら今度は甲板の掃除だ、新入りには仕事が山ほどあるんだからな!」

「わかりましたハサンさん」

ギムの答えに満足したのか、ハサンは階段を上って行った。そして、それを確認したギムは扉を閉めると、ディックに駆け寄った。

「甲板長・・・大丈夫ですか?」

「ああ・・・なんとかな・・・でも何であんたがここに?」

「それは・・・ラドリック様の指示です」

ディックの問いかけにギムはそう答えると、ディックの両手首に、持っていた膏薬を塗りつけた。鉄鎖で両手を拘束されているディックの手首には無数の擦り傷ができていたからだ。

「船長の?まさか船長はアルの呼び出しに応じたって言うのか!」

「甲板長、大声を出さないでください」

「す・すまねぇ・・・」

ギムは膏薬を塗り終わると、ディックに向き直った。

「甲板長・・・明後日の午後、ラドリック様はBlue galeでこの船に来ます。表向きはアルの呼び出しに応じたという事でです」

「Blue galeで・・・?あの船は小型船だぞ!?なんでBand of lightで来ないんだ?みすみすやられに来るようなものじゃないか!」

「だから大声を出さないでください甲板長。アルは前もって小型船で来るように指示してきたんです。それをBand of lightのような大型船で来れば、アルは逃げ出すに決まっています・・・・だから、私が先にこの船に来たんです」

ギムはそう言うと、言葉を続けた。

「明後日の午後、ラドリック様がアルと交渉をしている隙に私が甲板長を助けに来ます。甲板長はそれまで辛抱してください・・・いいですね?」

「・・・・わかった」

ディックはギムの言葉に頷いた。

「しかし・・・・俺を助け出したってどうやって逃げるつもりだ?俺と船長とあんたが居るとはいえ、相手は100人近く居るんだぞ?」

「もちろん近くに副長の指揮でBand of lightが商船に擬装して待機しています。それに、Blue galeの方には斬り込み隊から精鋭を選りすぐって副甲板長とロイが率いてます」

「副甲板長・・・」

ギムのその言葉にディックの表情が変わる。その変化を察したのか、ギムは静かに言葉を続けた。

「甲板長、貴方の気持ちはわかりますが、ラドリック様の船の甲板長は貴方しか居ません。恐らくラドリック様も同じ気持ちだと思います。ニーナ副甲板長は私の目から見ても優秀な航海士です。だが、ラドリック様の船の甲板長は貴方です。ロイもそれはわかっているはずです。甲板長・・・貴方もわかっているんでしょう?」

「・・・・・」

「副甲板長が優秀だと思ったから、ロイは安心して他の道へ進めるんです。これは決して貴方の元を去るということではないと思うのですが・・・・」

しばしの静寂・・・・

「私としたことが少し喋り過ぎたようです」

ギムはそう言うと、扉を開けた。

「甲板長、明後日もう一度来ます」

ギムはそう言うと、ディックの返事を待たずに部屋を出て行った・・・




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2008年11月09日

因縁の結末 §前編§

§1§



「うぅ・・・・ここは・・・どこだ・・・・?」

ディックは鈍痛のする頭を振りながら周りを見渡した。
さっきまで飲んでいた酒場ではないのはわかる。何故なら、ディックの両手は座っている椅子にロープで縛られているからだ。

「何で俺は縛られているんだ・・・・?酔っ払った勢いで暴れたか・・・」

そう呟きながらディックは再び周りを見回した。部屋には蝋燭の頼りない光がともり、辺りを照らしていた。広さは船の個室ぐらいだろうか・・・ここが酒場ではない事は確かだった。

「一体ここは・・・・・」

そう、ディックが呟いたその時、部屋の扉が開き、一人の男が手下だろうか、数人の男達を率いて入ってきた。男はディックの前に立つと、ディックを見下ろした。

「どうだディック・ウォレン。目覚めは爽快かな?」

男はそう言うと、唇の端を上げるように笑った。

「・・・・・お前は・・・・」

「ほう、覚えていてもらったとは光栄だ。まあ俺は嫌でもお前の事は忘れられんがな」

「・・・・・なんでバルバリア海賊のお前がこんな所にいるんだよ、アル・セヴァス・・・」

ディックがそう言うと、その男・・・アルは、大げさに首をすくめて苦笑して見せた。しかし、目は笑っていない。

「お前からそんな言葉を聞くとはな、ディック・・・お前達が逃げ出したお陰で俺はナッソーにも居られなくなったのさ、そう・・・お前達のせいでな!」

「けっ・・・・自分の不始末を人のせいにすりゃ世話が無いな・・・結局お前さんは一人立ちできるような器じゃないって事じゃないか」

「黙れ!」

ディックの言葉にアルはそう叫ぶと、ディックの腹を思いっきり蹴った。衝撃に耐え切れず、ディックは椅子と共に床に倒れこんだ。

「ぐっ・・・・・」

「お前達が・・・・そうだ、あの時お前達がイスパニアの船の手助けさえして無ければ、俺はこんな所で燻ってなんか無かったんだよ!」

激昂したアルは、そう言いながらも何度もディックの腹を蹴った。

「ぐはぁ!!」

「船長!それ以上やったら人質の意味がなくなります!」

なおも蹴り続けようとするアルを、手下が背後から羽交い絞めにしながら言った。

「はぁ・・はぁ・・・そうだな、ここで殺すわけにはいかないからな・・・・」

「・・・・・・・人質だと・・・・どういうことだ・・・・・」

痛みを我慢しなが問いかけるディックを見下ろしながら、アルは笑う。

「お前の敬愛する船長・・・ラドリックとか言ったな、あの若造に手紙を出したのさ。お前の命が助けたければ、指定した場所に来い・・・とな。自分の船の甲板長を人質に取られては、あの船長も来ない訳にはいかんだろう」

その言葉を聞いた途端、ディックは大きな声で笑い始めた。

「何がおかしい!」

「残念だったなアルさんよ!俺はもうあの船長の船の甲板長じゃないんだよ!」

「何だって!?嘘を言ってもすぐにばれるんだぞ!」

「嘘じゃねぇさ、今頃あの船の甲板長はニーナって言う女が務めているはずさ。俺はもうお払い箱なんだよ、あんたもご苦労なこった!来もしない奴を待つのはやめて、さっさと俺を始末したほうが手間がかからないぜ!」

ディックの言葉にアルは呆然としていたが、すぐに気を取り直し言葉を続けた。

「まあいい、とりあえず約束の日までは生かしといてやる。来ればそれでよし、来なければその時に改めてお前を始末してやる。それまでせいぜい死の恐怖に怯えるんだな!」

アルはそう言うと、手下を引き連れて部屋を出た。そして扉が閉まると、鍵をかける音が聞こえ、辺りに静寂が戻った。

「・・・・・・来るものかよ・・・・・」

ディックは血の混じった唾を床に吐くと、そう呟いた・・・・・



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2008年06月24日

亀裂 §後編§

§1§



「・・・・なんでってんだ、どいつもこいつもよ・・・・」

ディックはそう呟くと、グラスの中の酒を一気にあおった。喉に焼けるような痛みが走るが、ディックはお構い無しに飲み続けた。

「船長も船長だ、あんな奴をいきなり副甲板長にするだと・・・?」

ディックは酒瓶からグラスに酒を注いだ。Band of lightを後にしたディックは、丁度ロンドンから出航する商船に強引に乗り込むとコペンハーゲンへと向かった。何かあてがあったわけではない。ただロンドンから離れたかっただけだった。そして、コペンハーゲンで船を下りたディックは酒場に入ると、酒場の隅で酒瓶を抱えて飲んだくれていたのである。

「ロイの奴は俺と組むより冒険を選んだ・・・そりゃ、俺だってわかっているさ、確かにロイよりあの女の方が腕は遥かに上だ・・・だがよ・・・」

ディックは酔眼でグラスに注がれた酒を見ると一気に飲み干した。そして空のグラスに酒を注ぐ。

「俺とロイは・・・・昔から・・・そう、昔から一緒にやってきたんだ・・・・そう・・・あの時も・・・・」





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2008年03月19日

亀裂 §中編§

§1§


「さあかかってきな!甲板長さん!」

「その減らず口を黙らせてやる!」


強い日差しが照りつけるBand of lightの甲板で、二人の戦士は同時に動いた。放たれた斬撃が、太陽の日差しを浴びて交差する。

「このBand of lightの甲板長は俺だ!それが俺の誇りだ!それをお前のような奴に譲れるものかよ!」

ディックはそう叫ぶと、ニーナに向けて力強い斬撃を加えた。しかし、手加減のないその斬撃を、ニーナは華麗とも言える体捌きでかわす。

「はっ!こんな大振りな剣術で甲板長だって?聞いて呆れるね!」

「何を!」

「本当の剣術ってのはこういうのを言うのさ!」

ニーナはそう言うと、ディックに向けて、矢継ぎ早に斬撃を浴びせた。ディックの剣を燃え盛る炎に例えるならば、ニーナの剣は風・・・恐らく正式の剣術を学んでいるのだろう、フェイントを加えた斬撃にディックは翻弄される。

「くっ!ちょこまかと・・・」

繰り出される斬撃を受け止めつつ、ディックは反撃の機会を探っていた。確かにニーナの隙のない連続攻撃はディックを翻弄している。しかし、一つ一つの攻撃は軽いのだ。

「どうしたんだい甲板長さん!足が止まってるよ?もうおねんねかい!」

ニーナは攻撃を繰り出しながらディックを嘲弄する。しかし、ディックは黙ったまま攻撃を受ける事に専念していた。

「これで終わりさ!!」

ディックが反撃しない事を好機と捉えたのだろう、ニーナは一歩踏み込んでディックに鋭い斬撃を繰り出した。そして、その斬撃がディックを捕らえたかと思われたその瞬間、ディックは斬撃をよけるのではなく、ニーナに向けて一歩踏み込んだ。

「待ってたぜ、この瞬間をな!」

「な・なんだって!」

ディックが前に踏み込んだ事によって、ニーナの斬撃は空を切る。そして、ディックはそのままニーナに体当たりを食らわせた。その衝撃でニーナは後ろに倒れこんだ。ディックの肩が胸に当たったのだろう、すぐには起き上がれず苦悶の表情を浮かべる。

「所詮は女だな、力では男に敵わない事がわかっただろう!」

そう言いながら見下ろすディック・・・・しかし、ニーナはディックを睨みつけると、ディックに向けて唾を吐いた。

「はっ!まだ勝負は終わっちゃ居ないよ!ごたくを並べる前にさっさとかかってくりゃどうだい!」

「こいつ!!」

ニーナの言葉に激昂したディックは、まだ起き上がれていないニーナに襲い掛かった。しかし、ニーナは素早く体を起こすと、ディックの足に足払いをかけた。ディックはバランスを崩して顔から甲板に倒れこむ。

「ぐっ・・・」

「甲板長!あんたはとんだ甘ちゃんだね、敵の戦闘力を奪うまでは攻撃の手を休めない、それが戦いの基本だろう?さっさと立ちな!決着をつけてやるよ!」

ニーナは倒れこんでるディックを罵る。ディックは素早く立ち上がると間合いを取った。

「それはこっちの台詞だ!もう手加減はしねぇ、次で終わらせてやる!」

再び剣を構えた二人は、間合いを取りながら相手の様子を伺う・・・・そして、二人は同時に斬撃を放った・・・・・



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2008年02月12日

亀裂 §前編§

§1§



「坊ちゃん、パブロ提督から手紙が来てますぜ?」

「パブロさんから?」

ロンドンのアパルタメントで久しぶりの休息を取っていたラドリックは、手紙を届けに来たエドに問いかけた。

「ええ、坊ちゃん宛にとさっきサントドミンゴから帰ってきた商船隊の船長が船に届けてくれたんでさ」

エドはラドリックにそう答えると、手紙を差し出した。ラドリックは、読みかけの本を机に置くと手紙を受け取り、ペーパーナイフを使って手紙を封を開ける。

「確か、パブロ提督はAbel船長の所に居るんでしたね?」

「ああ、そうだ。いつもならAbel神父のアパルタメントに居るはずなんだが・・・・」

元イスパニア海軍提督パブロ・アルベニスは、ラドリックとAbelがかかわった一件で軍を退役した後、Abelの懇願に応えてAbelの執事として第二の人生を送っていた。本来執事というものは、主人の居ないアパルタメントの管理をするのが役目なのだが、パブロはAbelと共に時々航海に出ているのだった。

「しかしカリブか・・・・パブロさんは執事と言うより副官だな・・・」

ラドリックは苦笑しながら封筒の中から手紙を取り出し目を通した。そして一通り目を通すと、手紙を机に置いた。

「パブロ提督はなんて言ってきたんですか?」

「昔パブロさんの指揮下に居た軍人がイスパニア海軍を辞めたらしい。腕は保障するので俺の船で雇ってくれないかと言ってきてる。この手紙が届く頃にはこっちに着くだろうから、試してみてくれ、ということだ」

エドの問いかけにそうラドリックは答えた。

「なるほど・・・・パブロ提督のお墨付きなら腕の立つ野郎なんでしょうね」

「ああ、イスパニア海軍の中でもカリブ方面で私掠艦隊に所属していたらしい」

「ほう・・・・それは頼もしいじゃないですか、そいつが来ればあっしもディックも楽ができるってもんでさ。それにロイのやつの希望にも・・・」

「ああ・・・・・それはそうなんだが・・・」

「どうしたんです坊ちゃん?なにか不都合でもあるんですかい?」

いつになく乗り気でないラドリックの態度に不審を覚えたエドが問いかける。その問いかけにラドリックは頭を掻きながら答えた。

「それがな・・・・・その軍人というのが・・・・女性らしいんだ・・・・」

「お・・・おんなぁ!?」

エドの驚きの声が室内にこだました・・・・



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2007年09月24日

老兵は死なず §後編§

§1§



イスパニアの領土であるパルマの出航所に、三隻の帆船が停泊していた。船型はキャラックだろうか・・・遠目からでは分からないが、その船体には無数の傷が刻まれていた。

「・・・・この船と共に戦って何年になるかの・・・・それも今日で終わる・・・・か」


三隻あるキャラックの中でも一番古い船の甲板で、その男は呟いた。男はその船の船長だろうか、くたびれたパイレーツコートに身を包み、船体に刻まれた傷を指で撫でた。

「艦長、全艦出撃準備整いました」

副長らしい男が敬礼をして報告する。男はその報告に頷くと、甲板上に並ぶ船員達に向き直った。

「諸君、我が部隊はこれよりアルジェ沖に停泊しているバルバリア海賊の主力の一部を叩く為に出撃する。諸君等も知っている通り、我が部隊と敵の戦力差ははっきりしており、敵艦隊に打撃を与えるどころか生還もおぼつかんじゃろう・・・」

男は言葉を一旦区切ると、船員達を見渡した。どの船員の顔にも緊張が見て取れた。

「わしは軍上層部に疎まれた身だ、退役前のこの命をここで捨てても惜しくはない。しかし、諸君等はわしの様な老いぼれに付き合う事はない。希望者は退艦を許可するので前に出てくれ。なに、心配は要らん。疎まれているのはわしだけじゃから、諸君等が艦を降りても罪に問われないように、わしから上層部に具申しておくから、安心して名乗り出てくれ」

そう言うと、男は再び船員達を見渡した。船員達の顔はどれも緊張していたが、退艦を名乗り出る者は一人も居なかった。

「パブロ・アルベニス艦長、我ら全員、最後まで艦長のお供をする所存です。二番艦、三番艦の艦長からも、同様の返答が来ております」

船員達の思いを代表して、パブロの横に控えていた副長が言った。

「・・・・・・どいつもこいつも大馬鹿者じゃな・・・」

そう呟くパブロの頬に熱い物が流れる・・・

「諸君等の気持ちはわかった。諸君等の命・・・・わしが預かる!総員配置につけ!」

パブロの号令に船員達は歓声を上げると、敬礼を返して持ち場に散った・・・・




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2007年09月16日

老兵は死なず §前編§

§1§



「すいません、この造船所にホセと言う人はいらっしゃいますか?」

「ホセは俺だが?」

造船所の喧騒の中に聞こえた控えめなその声に、一人の船大工が作業の手を止めた。その男は造船所の親方らしく、赤銅色に焼けた顔を声の方に向ける・・・年の頃は50前後だろうか、その顔には深い皺が刻まれていた。

「貴方がホセさんですか?私はAbelと申します」

ホセの前に現れた男はそう名乗ると頭を下げた。その男は長い髪を無造作に垂らし、質素な修道衣を身に纏っている。そして、その胸には鈍く光るロザリオがかけられていた。

「・・・・俺には神父の知り合いはいないんだが・・・・」

ホセは戸惑いながらそう言った。その目には不審の色が浮かぶ。

「もちろん私とホセさんは知り合いではありません。ホセさんは海事ギルドに依頼を出しませんでしたか?」

「ああ、確かに依頼を出したが・・・もしかしてあんたが?」

「ええ、海事ギルドの方で依頼を受けましたので、依頼人であるホセさんに詳しい話をお聞きする為に来させていただきました」

「・・・・・あんたがねぇ・・・・もう一回確認するが、海事ギルドから来たんだよな?」

「ええ、そうです。まあ、ホセさんが訝しがるのもよくわかりますけど」

ホセがそう言うと、Abelはにっこりと笑った。

「もしお時間があれば、依頼の件についてお話をお聞きしたいのですが・・・・」

「ああ、それじゃあ酒場で待っていてくれ。すぐにあとを追うから」

「わかりました。それではまたあとで」

ホセの言葉にAbelは頷くと、ホセに頭を下げて酒場に向かって歩き出した・・・



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2007年09月04日

花酔いの石(後編)

§1§



「ああ、ラウルさんが言ってた件ですよねー?」

ワイラはそう言うと、ラドリック達に向き直った。ポルトベロを出航したラドリック達は、ラウルが情報収集を依頼したワイラに結果を聞く為にサントドミンゴに来ていた。

「ここに来る色んなお客さんに聞いてみたんですけど、やっぱり皆さん聞いたことがないって言うんですよー」

ワイラはラドリックにそう言うと、とてもすまなそうな顔をした。

「そうですか・・・・やはりカリブには存在しないのか・・・」

ラドリックはそう呟くと、何かを考えるように俯いた。

「ワイラさん、どんなことでもいいの、何か関係あるような事を聞いてない?」

考え込むラドリックを押しのけるように前に出たソフィアが言う。

「そうですねー・・・あ、その石については何もわからなかったんですけど、ラウルさんが見たお花については面白い事を聞きましたよー」

「面白い事?」

「ええ、イングランド商船隊の船長さんに聞いたんですけど、そのお花は太陽の下だと青く光るんですって」

「青く光る・・・・?」

「はい、桃色と青が混ざって、凄くきれいなんだそうですよー?ロンドンの女性はみんな知ってるって言ってましたけど・・・ソフィアさん知らないんですかー?」

「ああ、ソフィアは女性と言っても」

「お兄ちゃん、黙ってて!」

「う・・・・」

ソフィアはラドリックを一喝して黙らせると、考え込んだ。

「桃色の花・・・青く光る・・・まさか!」

「何かわかったのかソフィア!」

「もしかしたら答えはすぐ近くにあるかもしれないわ・・・お兄ちゃん!すぐに出航しましょう!」

「出航って・・・どこに行くんだ?」

ソフィアの意図がわからず戸惑っているラドリックを引っ張るように出航所に向かおうとするソフィアにラドリックが問いかける。

「行き先は・・・私達の生まれ育ったロンドンよ!」

ソフィアはそう言うとワイラに頭を下げ、ラドリックを引きずるように、出航所に向かった・・・



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2007年08月24日

花酔いの石(前編)

(注意:今回はネタバレを含んでいます)


§1§


「ふう・・・今帰ったぞ」

タラップを上がってきたラドリックがそう言うと、水夫達に指示を与えていたエドがラドリックの方を向いた。

「お早いお帰りですね船長」

「ああ、ここには用事もあまり無いしな・・・酒場に行くのも癪だし・・・」

エドの問いかけにラドリックは答えながら眼下に広がるエメラルドグリーンの海を見た。チュニスを出航したラドリック達は、一路カリブの開拓地グランドケイマンを目指し、開拓地に物資を納入したあと、グランドケイマンの南西にあるポルトベロに寄港していた。

「船長、お帰りなさい」

その声にラドリックが振り向くと、そこにはチャドリに身を包んだサラの姿があった。サラは手にした書類をラドリックに手渡した。

「物資の搬入は大方終了しました。いつでもヨーロッパに戻れます」

「ありがとうございますサラさん。しかし・・・・・」

「なんでしょう?」

「いや・・・暑くないですか?」

ラドリックはシャツの胸元に風を送り込みながら言った。

「ああ、私はいつも砂漠の中で生活していましたから。確かにこちらの暑さは砂漠の比ではないとは思いますけど・・・」

サラはそう言うと小首を傾げた。

「そうですか・・・・そういえば、ソフィアは何をしてるんですか?サラさん一人に仕事を押し付けて・・・困った奴だ」

「え?船長はソフィアさんと会ってないんですか?」

「ええ、会っていませんが・・・?」

ラドリックの言葉にサラは不思議そうな顔をする。

「じゃあすれ違いになったのでしょうか・・・?」

「何かあったんですか?」

「いえ、先ほど船にこの街の冒険者ギルドの方が訪ねて来られまして、ソフィアさんがその方の伝言を船長に伝える為に酒場に船長を探しに・・・」

「何だって!!」

サラの言葉にラドリックが大声を上げる。びっくりするサラの両肩をつかんだラドリックは、サラを揺さぶった。

「ソフィアがこの街の酒場に行ったと言うんですか!?」

「え・ええ・・・・」

サラの返事を聞くと、ラドリックは慌ててタラップを降りていった。その姿を呆然と見送るサラ・・・・

「あの・・・・エドさん・・・・」

「なんです?」

「私・・・・何か大変な事を言ったんでしょうか・・・?」

「いやいや、サラさんは何も悪くないですぜ。ただ、この酒場には色々ありましてね」

不安げな表情で問いかけるサラにエドは笑って見せるとそう言った。

「色々・・・・ですか」

エドの言葉にサラは小首を傾げる。

「そうです、ちなみに・・・・」

「ちなみに・・・?」

「サラさんは「世の中には自分にそっくりな人間が三人はいる」って話を信じやすか?」

エドはサラにそう言うと、豪快に笑った・・・・



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2007年06月24日

追憶

§1§



「そう・・・貴方が私の最愛の人を殺したからです」


サラの言葉にラドリックは凍りついた。そして、呻くように呟く・・・・


「俺が貴方の最愛の人の命を奪ったと?」

「ええ・・・そうです」

ラドリックの呟きにサラが答える。

「そう、貴方は私の愛しい人を・・・そして、我が部族最強の者であったあの人を殺したのです」

その言葉にサラの後ろに居たギムの表情が変わる。そして、ラドリックは再び呻くように呟いた。

「部族最強の男・・・・まさか・・・・貴方の愛しい人とは・・・」

「そう、私の愛しい人・・・許婚の名はラミアと言います・・・・」




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2007年06月02日

復讐の刃

§1§




「大理石は商館の方に運んで!仕入れてきた鉄鉱石と麻生地は奥の船倉に!」

ソフィアは書類を片手に持ちながら、交易品を運ぶ水夫達に矢継ぎ早に指示を出していた。アレクサンドリアでサラを船に向かえたラドリック達は、サラの部族の追跡を回避する為にアレクサンドリアを出航し、途中アテネに寄港して交易品を仕入れながら、ラドリックが所属する商会である「CAFE-de-Genova」の商館があるチュニスへ寄港したのだった。

「ソフィアさん、この仕入れ発注書なのですが、目を通したとら不備がありましたので修正しておきました」

「ああ、サラさんありがとうございます」

「では私はこれを持って交易所の方に行ってきますね」

「お願いします。護衛にはディックをつけますので」

「ありがとうございます。それでは」

サラは手にした書類をチャドリの裾にしまうと、ソフィアとラドリックに一礼して、ディックの待つ方へと歩いていった。

「どうだソフィア、サラさんは?」

「もの凄く助かってるわ。お兄ちゃんの100万倍役に立ってる」

「そ・そうか・・・・」

ソフィアの言葉にラドリックは頭を掻いた。サラを航海士として迎えた時に、ソフィアはサラを自分の補佐として雑用を手伝ってもらうつもりだった。しかし、サラは交易商である叔父の手伝いをしていたこともあり、雑用だけではなく商売上の様々な事にも素養を見せ、この一ヶ月余りの航海でソフィアにはなくてはならない存在になっていたのだった。

「流石に交易商の叔父さんの手伝いをしてただけあって、商売の基本をしっかり叩き込まれてるみたい。お陰様で私もかなり楽ができるわ」

「そうか・・・・良かったなソフィア」

「ええ、もしサラさんが良ければ、このままこの船にずっと乗っていて欲しいぐらいよ」

「ああ、そうなるといいな・・・・・じゃあ俺も所用を済ませてくるか」

ソフィアの言葉にラドリックは頷くと、舷側の方へ歩き始めた。

「所用って何があるの?」

「ああ、たまたま商館にベネットやjulian卿が来てるらしいんでな。久しぶりに会って話をしてくる」

「船の仕事はどうするのよ!」

「積荷の管理に関しては俺がいても役に立たないだろ?作業が全部終わったら、みんなには半舷休息を与えてやってくれ」


歩き始めた自分に問いかけるソフィアに手を振って見せながら、ラドリックは舷側へと歩いて行った。

「もう・・・・お兄ちゃんったら・・・・・」

ソフィアは頬を膨らませながらそう呟くと、自分の仕事に戻っていった・・・・


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2007年05月26日

新たなる出会い

§1§


「ここは相変わらず暑いな・・・・カリブとは違った暑さだが・・・・」

「そうですね、乾いた暑さというやつでしょうか」

ラドリックはバヌースの首元をくつろげて風を送り込みながらエドに言った。間一髪でナッソーを脱出したラドリック達は、ナッソーの内部情報をグレッグ男爵に報告した後、交易の為に東地中海のアレクサンドリアに来ていた。本来アレクサンドリアはオスマン帝国の領土の為、異教徒であるラドリック達は入港できないのだが、蛇の道は蛇の言葉の通り、出航所の役人にいくばくかの付け届けを贈ることで半ば公然と入港することができたのである。

「しかし・・・・これだけ砂煙がひどいと、カリブにいるときのような格好はできないな」

「そうですねぇ、流石にバヌースを脱ぐってわけにも行きませんしね」

ソフィアが交易所に行っている間に所用を済ませたラドリックとエドは、情報収集も兼ねて休憩所に向かっていた。イスラム教徒は酒を飲まない為、酒場というものがオスマン帝国にはなく、水タバコや茶を飲む場所としての休憩所が酒場の役割を果たしているのである。

「でも不思議ですねぼっちゃん」

「何がだ?」

「イスラム教徒って奴は、豚や牛の肉は食わないし酒も飲まないっていうんですぜ?何が楽しみで生きてるんだか・・・・」

「この世界の人間が全員エドのように飲んだくれてる訳じゃないんだよ。それにイスラム教徒は戒律で酒や羊の肉以外の肉を食べてはならないんだそうだ。ほんとは食べたり飲んだりしたいのかもしれないぞ?」

「あっしはキリスト教徒で良かったですよ。酒が飲めない世界なんてまっぴらごめんでさ」

「まあ、そうだろうな・・・・・ん?休憩所の方が騒がしいぞ?」

そう言って肩をすくめるエドにラドリックは苦笑しながら頷く・・・その時、休憩所の方から複数の人間の怒鳴り声が聞こえてきた。

「喧嘩・・・・ですかね?」

「わからんが・・・・とりあえず行ってみよう」

ラドリックはそう言うと、エドを促して休憩所の方へ向かった・・・・



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2007年04月28日

脱出

§1§




「こいつらは海賊なんかじゃない!イングランド海軍の密偵だ!」


ハイレディンの影武者だった男がラドリック達を指差しながら叫ぶ。その声に周囲の海賊達が一斉に立ち上がった。

「なんだって!」

「よくもここまで入り込んできやがったな!」

「簀巻きにして鮫の餌にしてやる!」

口々に罵声を浴びせながら得物を構える海賊達を向こうにまわしながら、ラドリックとディックは周囲を見回していた。

「まずい事になりましたね・・・・船長どうします?」

「どうするといったって・・・・取り合えず・・・」

ラドリックはそう呟くと、腰のベルトに手挟んでいた短銃を抜き放ち、空に向かって撃った。その音に、一瞬海賊達が身を竦ませる。

「取り合えず逃げるぞディック!」

「了解!」

ラドリックはディックにそう言うと、ハイレディンの影武者だった男に向かって走り出した。ディックもそれに続く。

「なっ!?」

突然の行動に驚く影武者の横をすり抜けると、ラドリック達は目の前の林に向かった。

「くそ・・・・馬鹿にしやがって・・・・おい、追いかけるぞ!」

不意を衝かれた影武者は配下に声をかけると、ラドリック達のあとを追いかけて林に向かった。酒場にいた海賊達も大半はあとに続いたが、一部の者はテーブルに座ったまま動かなかった。そして、その中の一人が林の方を見ながら呟いた。

「・・・・提督、どうします?」

「・・・・・ほっとけばいい・・・というのは無関心すぎるか」

そう言うと、提督と呼ばれた男は椅子から立ち上がった。

「出港準備をするぞ、それと・・・・外の連中にも伝書カモメを飛ばしておけ」

「了解しました」

男はそう言うと、桟橋を目指して歩き始めた・・・・・

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2007年04月17日

海賊の集まる島

§1§



「Band of lightとの距離500!砲弾装填完了しました!すでにpip船長の船は砲撃を開始しています!」

副官のロシェの言葉にレヴィローズは頷くと、Band of lightの方を見ながら言葉を放った。

「1番から順番に発射して!但し、絶対にBand of lightには当てないこと!

レヴィローズの命令をロシェが復唱する。砲術長の号令とともに、無数の砲弾がBand of lightに向かって放たれた。

しかし、レヴィローズが厳命したとおり、砲弾はBand of lightの左右に着弾するが、派手な水柱を上げるばかりで肝心の船体には命中しない。同じく並行しているpip船長の船から放たれた砲弾も命中していなかった。
・・・・そう、これは芝居・・・・ラドリックBand of lightが海賊島であるナッソーに潜入する為の芝居なのだ。

グレッグ男爵にナッソーの調査を依頼されたラドリックは、一緒にカリブに来ていたレヴィローズ、pip、養殖おりびあに協力を頼み、各国の哨戒艦隊から追われるイングランドの私掠船を装ってナッソーに潜入する事にした。そして、わざとナッソー周辺に張り巡らされた海賊達の哨戒網に引っかかるように、偽りの艦隊戦を行なっているのだった。その為、Band of lightは海賊船に偽装しており、一見普通の船には見えなかった。

「・・・・・うまく行くかしら・・・・・」

偽りの攻撃を加えながら、レヴィローズは呟いた。既にナッソーの哨戒網奥深くに入っているにもかかわらず、レヴィローズ達の艦隊を迎撃する艦隊も海賊船に偽装してるBand of lightを救援する艦隊も出てくる気配がなかった。その静けさが、レヴィローズの不安を駆り立てた。

「後方のおりびあ船長の船がBand of lightに砲撃しています!」

「何ですって!おりびあさんは周囲警戒の役で砲撃には参加しないはずよ!」

レヴィローズはそう言うと、養殖おりびあの船を見た。養殖おりびあのアラビアンガレーは、Band of lightに接近しながら砲撃を加えていた。一見それは、砲撃戦に業を煮やしたガレーが接近戦を仕掛けたようにも見えた。

「船長、おりびあ船長から伝書カモメです」

ロシェは、おりびあの所から放たれた伝書カモメの足についていた連絡文をレヴィローズに手渡した。レヴィローズはその連絡文を開く・・・そこには「偽装とわかる偽装は偽装にあらず。危険が増すだけ」と書かれていた。

「まさか・・・おりびあさん本気で砲撃を仕掛けるんじゃ・・・・」

レヴィローズがそう思った瞬間、激しい爆発音が聞こえた。レヴィローズがその爆発音の方を振り向くと、おりびあの船の砲撃がBand of lightの船腹に命中し、黒煙を上げていた。おりびあの船は更にBand of lightに肉迫する。

「おりびあさん!」

レヴィローズは叫んだ。そしてロシェの方を向くと、周囲を警戒するように命令を下す。そして・・・・

「船長!右前方の島影に艦影!ガレオン級が4隻・・・ようやく出てきたようです!」


ロシェの言葉にレヴィローズは頷くと、砲術長に合図の空砲を撃たせた。その合図にpip船長もおりびあ船長も、船を転回させて戦闘区域から離脱する構えを見せた。ラドリックのBand of lightは、消火作業を続けながら、前方の島に流れいく・・・


「ロシェ、私たちも戦闘区域を離脱します!そして、打ち合わせの通りに集合場所へ針路を!」

レヴィローズの命令をロシェが各所に伝える。そして軋むような音とともに、船は転回した。

「お兄様・・・ご無事で・・・・」

レヴィローズは後方を振り向きながらそう呟いた。その目線の先には、ナッソーの艦隊に囲まれるBand of lightの姿があった・・・




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2007年03月24日

開拓地へ・・・

§1§




「よし、グランドケイマンが見えたぞ!帆を畳め!総員投錨用意!」

副長のエドの声に船員達が慌ただしく投錨の用意をする。ロンドンを出航したBand of lightは、一路カリブ海にあるイングランド開拓地「グランドケイマン」を目指していた。そして今、目の前にその島影が見えたのである。

グランドケイマンは、クリストバル・コロンが発見した西インド諸島の一部であるケイマン諸島最大の島で、国際条約によりイングランドの開拓地として認められている。このような開拓地は他にも5つあり、それぞれ欧州諸国の開拓地として、新天地を目指す航海者の基地となっていた。

「おやっさん、投錨完了しました!」

「よし、ボートを降ろせ!グランドケイマンに上陸するぞ!」

副甲板長のロイがエドに報告すると、エドは次の指示を出した。グランドケイマンはBand of lightのような大きな船を係留する桟橋ができていないのだ。それも開拓地の開拓地である所以であった。

「ボートの準備できました!」

「船長、いつでも上陸できますぜ?」

ロイの再度の報告に、エドは傍らのラドリックに言った。その言葉にラドリックは頷きながら、舷側へと歩き出した。

「よし、今から上陸するぞ、ディック!ついて来い!エドはBand of lightを頼む!」

「アイ・サー!」

「まってお兄ちゃん、私も行く!」

「よ〜し、残った奴らは積荷のチェックだ!途中の嵐で傷んだものが無いか、船体のチェックもするぞ!」

ラドリックのあとをディックとソフィアが続く。それを見ながらエドは矢継ぎ早に指示を出していった・・・



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2007年03月21日

新たなる旅立ち

「ライザ・ミドルトン、そしてラドリック・ガーランドよ、よくぞこのイングランドを守ってくれましたね、この国に住む民にかわって礼を言います」

女王はそう言うと、頭を下げた。オポルト沖海戦でキングリューの率いる艦隊を撃破し、キングリューを拘束したラドリック達は、ロンドンに凱旋した。そして、負傷したエドやディック達を病院に収容させ、事後処理を航海長のレイモンドに任せると、ライザと共に女王に報告をする為に宮殿に向かったのだった。

「私は陛下の御意を受けてイングランド海軍の士官としての責務を果たしただけです。本当ならば、独断で行動を起こした時点で罪に服さねばならない所を、陛下のお計らいで、キングリューを拘束することができたのです」

「ライザの言うとおりです陛下、私達はイングランドの国民として当然の事をしたまでです。イングランドに生を受けた者として、祖国を守るのは当然の事です」

ライザとラドリックは女王の前に跪きながらそう答えた。

「しかし、貴方達が身を挺してキングリューを撃破してくれなければ、このロンドンは火の海となっていたことでしょう。私はこの国の王として、貴方達の功に報いる義務があります」


女王はそういうと、横に控えるサセックス伯に視線を向けた。その視線を受けたサセックス伯は一歩前に出ると、手にした羊皮紙を開いた。

「ライザ・ミドルトン、ラドリック・ガーランドの両名を本日を持って爵位を一つ進める事とする。それと、今回の海戦にかかった費用と報奨金を国の国庫より下賜する事とする。それと・・・・」

サセックス伯はライザの方を向くと、もう一つの羊皮紙を開いた。

「ライザ・ミドルトンは本日付けでウィリアム・ミドルトンの艦隊より異動を命じる、異動先は王立護衛艦隊・・・そこで、オットー卿の指揮下に入り、分艦隊を率いる事」

その言葉にライザが顔を上げる。

「陛下・・・・それは・・・」

「キングリューは撃破されたものの、我がイングランドは各地に敵を抱えています。今は一人でも優秀な指揮官を育てる必要があるのです・・・ライザよ、貴方にはこのイングランドを守る盾となって欲しいのです」

「陛下・・・・・」

「ウィリアム卿には既に了解を取っています。ライザよ、引き受けてくれますね?」

「私のような者に勿体無いお言葉・・・・このライザ・ミドルトン、命をかけて陛下のご期待にお答えいたします!」

女王の言葉にライザは目に涙を浮かべながら言葉を返した。女王は満足そうに頷くと、ラドリックの方を向いた。

「ラドリックよ、私は貴方にも王立護衛艦隊の分艦隊を率いてもらいたいと最初は思っていました。しかし、貴方はそれを望まないでしょう・・・・そこで、貴方には別の役目を与えます」

女王がそう言うと、サセックス伯が女王の言葉を受け継いだ。

「ラドリック・ガーランドよ、女王陛下の名において、貴官の軍務を解く。そして、新たに新大陸の調査を命じる!」

その言葉にラドリックは驚き、顔を上げて女王を見た。女王は微笑みながら頷く。

「なお、大海戦の参加も自由とする。ラドリック・・・・陛下のご温情に感謝するのだな、総司令官である私としては認めるわけにはいかんのだが・・・・」

「サセックス伯」

サセックス伯が更に言い募ろうとするのを制すると、女王は言葉を続けた。

「ラドリックよ、新大陸の調査は我がイングランドの命運をかける事業です。他の海洋先進国や新興国も新大陸の利権を狙っているでしょう・・・特にイスパニアは新大陸にもっとも近いといわれています。危険も伴うでしょう・・・だから貴方に命じるのです」

「陛下・・・・」

「恐らくこの調査は新大陸にとどまる事なく、インドの東方にある様々な海にも繋がる事でしょう。その調査には熟練の航海者である貴方が適任だと思うのです。やってくれますね?」

「御意にございます陛下、このラドリック・ガーランド、陛下のご期待に副えるよう、身命を賭して任務に当たらせていただきます」

女王の言葉にラドリックは深く頭を下げると、力強い口調で答えた。

「ラドリックよ・・・・十分休養を取り、準備を整えたなら出航しなさい、そして、新天地に羽ばたくのです」

「ありがとうございます陛下・・・・」

ラドリックは溢れる感情を抑えながら女王に答えた。ラドリックの跪く緋色の毛氈に、ラドリックの流した涙が落ちて染みを作った・・・・




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posted by ラドリック at 20:20| Comment(5) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月17日

死闘 §後編§

§1§


「エド・・・・・嘘だろ・・・・・エドォ!!!」

硝煙と静寂が包む船上で、ラドリックは物言わぬエドを抱きしめ叫んだ。熱い涙がとめどもなく流れ出る・・・・・

「ふん・・・・自分の仕える船長を我が身を挺して護った悲劇の副官・・・・と、言った所か・・・・無駄な事を」

「・・・・・・」

「折角副官が護ったお前達の命も、あともう少しで消える・・・・結局はほんの数分生き延びただけだったな・・・・フフフフフ・・・・ハーハッハッハ!」

「キングリュー!貴方という男は!」

エドを抱きしめたままのラドリックとその横に居るライザを見ながら、キングリューは嘲笑った。その言葉に激昂するライザ・・・・その時、ライザの肩をラドリックの手が掴んだ。

「・・・・・ライザ・・・・エドを頼む・・・・」

「・・・・ラドリック・・・・?」

振り返ったライザの瞳に移るラドリックの表情は虚ろだった。その瞳には何も映していない・・・・・ラドリックはエドを甲板に横たえると、無造作に立ち上がった。そして、腰に吊るした宝剣フラガラッハを抜き放つ。

「・・・・・・・・・・キングリュー・・・・・・・貴様だけは絶対に・・・・・」

「何か言ったか小僧?」

「貴様だけは・・・・貴様だけは絶対に許さん!俺と共に地獄に落ちてもらうぞ!」

「ラドリック!行ってはだめ!」

ラドリックはそう叫ぶとフラガラッハの鞘を投げ捨てた。そして、両手でフラガラッハを下段に構えると、船尾楼の壇上に居るキングリューに向けて走り出した。止めようとしたライザの手はラドリックには届かない・・・・・

「うおぉぉぉぉぉ!!」

走りながら雄叫びを上げるラドリック・・・・その目には狂気の炎が燃え上がっていた・・・・・



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2007年02月11日

死闘 §中編§

§1§



「・・・・・エド・・・・・敵艦は・・・・・・」

「今ので全部でさ・・・・・」

「そうか・・・こちらの損害は・・・・」

「右舷の大砲は全て使用不可・・・損傷箇所は応急処置をしてますが・・・これ以上は無理ですぜ・・・それと・・・」

「・・・・それと・・・?」

「水夫の死亡30・・・・負傷者42でさ・・・・」

「くっ・・・・・・・代償は高くついたな・・・・・・」

ラドリックはそう呟くと、炎に焦げたマストを拳で殴った。ラドリックの作戦は功を奏し、一隻だけと甘く見たイスパニア艦隊は、キングリューの旗艦と護衛艦を残し全滅した。しかし、Band of lightの被害も大きく、船体には各所に被弾した穴が開き、延焼のあとも痛々しかった。

「それと・・・・ディックですが・・・・」

「まさか・・・・死んだなんていうんじゃないだろうな!」

エドの言葉にラドリックが振り返る・・・・ディックは敵の白兵戦の最中に負傷し、船医であるカークが治療を行なっていたのだった。

「船長、あいつは殺したって死ぬ奴じゃありませんぜ。ただ・・・当分は療養が必要らしいんでさ」

「そうか・・・・・」

その言葉にラドリックは周りを見渡した。船自体の被害も大きいが、人的被害も大きかった。ある者は頭に包帯を巻き、またある者は腕を吊っている。怪我の無い者も疲労の色が濃く、甲板に座り込んでいるものも多数いた。


「あとは・・・・・・」

そう、ラドリックが呟いたその時、ロイがラドリックとエドの元に駆け寄ってきた。

「船長!おやっさん!大変です!」

「ロイ!どうしたってんだ!」

「あれを・・・・あれを見てください!」

ロイが指差した方にラドリックとエドの視線が向く・・・その目に映ったのはキングリューの旗艦である重ガレオンと撃ち合っているライザの船の姿だった。

「どういうことだ!あとの船はどうしたんだ!・・・・・まさか!!」

「迎撃艦隊の殆どは護衛艦と刺し違えたようです!生き残った艦も戦える状態では無いようで・・・・ライザ船長が生き残った艦を逃がす為に時間を稼いでいるようです!」

確かにライザの船と重ガレオンの周りには護衛艦と迎撃艦隊の船の物であろう残骸が多数浮いていた。

「くそっ!!このままでは・・・・・・」

ラドリックは拳を握り締めながらライザの船の方を見た。ライザは砲撃を加えながらも、重ガレオンとの距離を詰めていった。

「馬鹿な!・・・・・・ライザ・・・・死ぬ気か!!」

舷側から身を乗り出すようにして叫ぶラドリック・・・・その瞬間、ライザの船とキングリューの重ガレオンは接舷した。船体と船体のぶつかる音が、遠くからでもはっきりと聞こえた。

「このままライザをやらせるわけにはいかない!レイモンド!敵の重ガレオンにBand of lightをぶつけろ!強行接舷させる!エドは斬り込み隊の連中で無事な奴を集めてくれ!」

「アイ・サー!」

手負いの獣が最後の咆哮を上げるように、船体を軋ませながら重ガレオンに向かって船首を向けるBand of light・・・・・ラドリックはその船首に立ちながら、徐々に迫る重ガレオンを見つめた。


(ライザ・・・・・無事でいてくれよ・・・・・・)



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2007年02月04日

死闘 §前編§

§1§


「ラドリック!そんな事は認められないわ!」


ライザはそう言うと、正面に座っているラドリックに厳しい視線を向けた。

ロンドンで編成を済ませた迎撃艦隊は、セビリアから北上してくるキングリュー率いるイスパニア艦隊を迎撃すべく、ビスケー湾を南下していた。そして、迎撃作戦を立てるべく、主だった船長がライザの船に集まっていたのである。


「ライザ、冷静になれ。今の戦力で正面決戦を挑んでは、負けるのは目に見えているんだ。俺の作戦を了承してくれ」

挑みかかるようなライザの視線を真っ向から受け止めながら、ラドリックは静かに言った。

「それはわかっているわ!でも、貴方の船一隻だけを囮にするなんてできない!」

「だが、そうしなければこちらの勝機は無い」


迎撃艦隊は数だけは揃ったものの、殆どがフリゲート、ピンネース等の中型の艦隊だった。イスパニア艦隊の出航を確認したイングランド側の密偵からの情報によれば、イスパニア艦隊は戦列艦こそ居ないものの、重ガレオンを旗艦にガレオンを多数擁している・・・・苦戦は必死だった。

そこで、ラドリックは迎撃艦隊唯一の大型艦であるBand of lightを囮にする事によって敵をひきつける事にした。そして手薄になったキングリューが乗るであろう旗艦をライザ達が包囲して撃破する・・・・・それがラドリックが立てた作戦だった。

「・・・・・ラドリック・・・貴方死ぬつもりなの・・・?相手は一隻じゃないのよ?」

「わかっているさライザ・・・しかし俺は死ぬつもりは無い」

「ならば、せめて艦隊を二分して」

「ライザ・・・・申し出は嬉しいが、そうなると今度はライザの方が手薄になる。いくら俺が敵を引き付けても、旗艦を裸にするほど敵も甘くは無いだろう・・・・護衛艦のガレオンと旗艦の重ガレオン・・・イスパニア艦隊の強さはルアンダで思い知っただろ?」

「そ・・・それは・・・・」

ライザはラドリックの言葉に反論できなかった。ルアンダのイスパニア警備艦隊でさえ、一対一では押されていたのを思い出したからだ。

「とにかく、ここは俺に任せてくれ・・・・頼む」

「・・・・・わかったわ」

ラドリックの言葉にライザは答えると、部屋に居る全員を見回した。

「我が艦隊はこれよりイスパニア艦隊の迎撃にあたります。副長、敵との遭遇予測はどれぐらい?」

「このまま南下すれば・・・・恐らく半日後は敵と遭遇します。遭遇予定は・・・・・」

ライザの問いかけに副官は答えると、机の上に広げられている地図をの一点を指し示した。

「なるほど・・・・オポルト沖か・・・・」

集まった船長の一人が呟いた。

「ラドリックは先行して敵との口火を切って。残りの艦は手薄になった敵旗艦を集中攻撃します!」

「了解!」


ライザの言葉に男達は敬礼を返して答えた・・・・



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2007年01月27日

出撃前夜

§1§



「なんで私は行っちゃ駄目なのよ!」

ソフィアはそう言うと、目の前のテーブルを手で叩いた。

謁見の間を辞したラドリックは、出撃の準備を整える為にBand of lightに戻り、航海士達を集めて指示を出した。そして、その準備が一段落した時点で、ソフィアを船長室に呼んだのだった。

「ソフィア・・・・今回の出撃は今までのようにはいかない。最悪の場合、二度とロンドンの土は踏めないかもしれない・・・・そんな危険な所にお前を連れて行くわけにはいかないんだ」

「何でよ!ケープで海事演習をしたときも、カリブで海賊の掃討戦をした時も、私はずっとお兄ちゃんたちと一緒だった。それなのに、何で今回だけ!」

「考えてみろソフィア・・・演習はあくまで演習、掃討戦は実戦とはいえ、戦闘力ではこちらが上だった。しかし、今回はイスパニアの無敵艦隊の一部が相手だ・・・・とてもじゃないが、お前を守ってやる余裕がないんだ・・・・」

「守ってもらわなくてもいい!私は絶対に」

「ソフィア!わがままを言うな!」

なおも言い募ろうとするソフィアを一喝すると、ラドリックは冷たい声でソフィアに告げた。


「主計長ソフィア・ガーランドの任を解く。今日中にBand of lightから下船するように」

「お兄ちゃん!」

「これは船長命令だ、逆らうのなら力ずくでも下船させるぞ!」

ラドリックの言葉を聞いて、ソフィアの目に涙が浮かぶ・・・そして、ソフィアは無言で踵を返すと、船長室を出て行った。

「ソフィア・・・・わかってくれ・・・・・・」

ラドリックは開いたままのドアを見つめながらそう呟いた・・・・・



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posted by ラドリック at 14:40| Comment(5) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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