2005年09月11日

決着 §中篇§

カイロの対岸、ギザ地方にあるファラオ達の墓所『ピラミッド』の入り口にその男は立っていた。その男はコルセアコートに身をつつみ、ピラミッドの入り口を背にして悠然と立っていた。そして、その男は俺を見るなり感情のこもっていない声でこう言った。


「ここはファラオの眠る墓所なり、貴様のような下賎な者が来るべき所ではない、早々に立ち去れ」


俺は一瞬その男が言っている言葉が理解できなかった。

(下賎な者?この男は俺の事を下賎な者と言ったのか?)

確かに俺の今の格好は裾が擦り切れたドルマンにくたびれたアラビアンシューズ、頭には日除けのアジシェを被っている。海に出る者の常として、身体は日焼けで黒くなっているので、一見しただけではイングランド人とはわからないかもしれない。

「俺は貴方が言う下賎な者ではない、イングランド王国の国民にして軍属のラドリック・ガーランドという者だ。このピラミッドの調査をアレクサンドリアのギルドから依頼されて・・・」

俺はその男の方へ歩きながら自分の身分を説明しようとした。しかし、その男は俺の説明を遮った。

「お前が何者であろうとも、ここを通す訳には行かない。立ち去るがいい」

どうやらこの男はここの墓所を守る番人らしい。ならば話は早い。私は玄室を見たいとその男に説明した。

「玄室を見たいだと?お前は自分の言っている言葉の意味がわかっているのか?」

男が言葉を続けようとしたその時、私の後ろから大きな声が聞こえた。

「ラドリック様!どちらにいらっしゃいますか!!」


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posted by ラドリック at 21:49| Comment(11) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月22日

戦いの海へ・・・そして

「前方に敵船を確認!アラガス旅団です!」

「よし、風上から侵入する、後方の船に信号を送ってくれ。各員戦闘配置!」

俺達は今、商会のベネット船長や商会長、商会長の知り合いの軍人方と一緒にアフリカ大陸の南にある街ケープを拠点に付近を横行している海賊を相手に海事訓練を行っている。

ポルトガルの航海士バルトメロウ・ディアス提督が発見した喜望峰にあるケープは、アフリカ周りのインド航路の中間点にあたる為、商船を襲う海賊や盗賊団が獲物を求めて遊弋している。しかも各国の私掠艦隊もいる為、さながら海賊のメインストリートになっている。

先日のロードス島沖での敗戦に軍人としての自信をなくしていた俺は商会長の誘いを受けて、甘えていた自分を徹底的に鍛えなおすべく、海事演習に参加したのだった。


「敵船がこちらに気づいたようです、全船旋回しています!」

メインマストのラットラインにぶら下がりながら前方を見ていたロイが叫ぶ。

そして戦いが始まった・・・・
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posted by ラドリック at 21:50| Comment(14) | TrackBack(1) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月28日

彷徨えるイングランド人、日誌を書くことを思いつく

星が見える・・・・・・・

俺の指揮するアラビアンガレー『HMS Raging dragon』号は、同じ商会の仲間や知人と艦隊を組んで、女王陛下の命令を実行に移すべくカリブに向かって航海を続けていた。
ロンドンから出航した艦隊は進路を南西に取りながらビスケー湾、北西大西洋を通過、ポルトガル領でサトウキビとマディラワインで有名なマディラ島で一旦補給する為にマディラ沖を航行していた。

俺は副長のエドに艦の指揮を任せ、船長室でラムを飲みながらカリブ海の海図を見ていたんだが・・・・急に周りが暗くなったと思ったら目の前に無数の星々が浮かび上がったんだ。勿論体の自由はきかないし、今まで座っていた椅子や海図を置いていた机は消えてしまって、どっちが上でどっちが下かもわかりゃしない。

声を出そうにもいくら叫ぼうが喚こうが、声はひとつも出てこない。そのうち頭が酒を飲みすぎてぶっ倒れた次の日の朝みたいにガンガンしてきて、意識が混濁してきた。そして、その時俺の頭の中に直接男の声が聞こえてきたんだ。『グラボが壊れた!』と・・・・

その声は俺の頭の中に次々と浮かんでは消えていった。『ドライバを再インストしても直らない』とか『修理するのにショップに持ってかないと』とか『このままじゃ当分は海に出れないなぁ・・・』とか、俺にはわからない単語が並べられていく。わかる単語を必死に記憶して整理して見ると一つの事がわかった。どうやらこの声の主は、この世界とは違う世界に居る俺の分身らしい

俺は声を振り絞って俺の分身に話しかけようとしたが、どうやら俺の分身はグラボとやらの事で頭が一杯らしく、俺の呼びかけには応じようとしなかった。まあ、聞こえないのかもしれないが。
俺も叫ぶのに疲れたんで、目をつぶって分身が気づいてくれるのを待つことにした。なんせ体の自由はきかないし、叫んでも声が出ないんだからどうしようもないしな。


そして・・・・何日が過ぎただろう・・・・正直時間の感覚などとうにわからなくなってるから何日が過ぎたかなんてわからないんだが、ボーっとしてた俺の頭の中に分身の声が聞こえたんだ『やっと直った!!』と・・・・・そして、再び俺の意識は混濁していった・・・・・




*    *    *





「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」

その声に誘われるように俺が目を開けた時、俺の目の前にはランタンの吊るされた天井があった。

どうやら俺は船長室で倒れていたらしく、たまたま補給の相談で来た妹のソフィアに発見されたらしい。船医のカークが色々手を尽くしたんだが、俺が気づかないので他の船長に事情を話してマディラ沖で艦隊を抜けリスボンに寄港、行きつけの宿屋で俺の回復を待っていたんだそうだ。


「船長室に入ったらお兄ちゃんが倒れてて・・・・私・・・・心配したんだから!」

ベットの傍で泣きながら話すソフィアの頭を撫でてやりながら、俺はあの異空間の出来事のことを考えていた。

あれは俺が倒れていた時に見た夢だったのだろうか・・・・しかし、俺の分身らしい男の声、そしてわけのわからない単語・・・・・あれは今でも鮮明に思い出すことができる。そういえば、あの声はこんな事も言ってたな・・・・『あ〜あ、航海に出れなくて暇だなぁ・・・こんな時に日誌でも書いておけば、それを読み返して良い暇つぶしになっただろうに』なんて事を。

そういえば、俺も海に出るようになって色んな経験をしてきた。忙しさと元来の筆不精で航海日誌なんて書く気にもならなかったが、こんな不思議な体験をしたんだ、これからはちょくちょく合間をみて、航海中に起こったさまざまな出来事を日誌として書いてみるか・・・・もしかしたら分身のあいつも何かの手段で読むかもしれない・・・・

と、らちもない事を考えながら、俺は天井をじっと見つめていた・・・・


posted by ラドリック at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月27日

プロローグ 〜旅立ちの時〜

時は16世紀初頭・・・・・

15世紀より、ポルトガルやイスパニア等、航海先進国によって切り開かれたアフリカ回りのインド航路により地中海交易は衰退し、俗に言う『大航海時代』がはじまった。

インドに足がかりを得たポルトガルは、当時『胡椒の一粒は黄金の一粒』と言われた胡椒を地中海に持ち帰ることによって海洋国家として隆盛を極めた。隣国イスパニアもクリストバル・コロン(コロンブス)が発見したカリブ航路(コロンブスはインド航路と信じて疑わなかったが・・・)を足がかりとしてアメリカ大陸に進出、その地に眠る巨万の富を得る。

ポルトガルとイスパニア・・・・この二大海洋国家の航海士達にによって大航海時代の歴史は彩られていった。しかし、巨万の富を得るために大海原に挑んでいったのは両国の航海士だけではなかった・・・・





*    *    *






霧の街ロンドン・・・・

ブリテン島の南部に位置するこの街は、イングランド王国の首都であると同時に、イングランド最大の港でもあった。曇り空の中、出航所の桟橋には無数の艀が並び、荷物の積み込みや積み下ろしをする船員等でごった返していた。

そんな港の片隅に一人の若者が居た。年の頃は二十歳になるかならないかだろうか、灰色の髪を潮風に吹かれるに任せてじっと海を見つめている。若者の名はラドリック。少年の頃より航海士として海に出る事を夢見ていた。そして・・・・その夢がかなう時が来たのだ。

交易商人である父親が年齢を理由に引退する事が決まり、船と多少の財産をラドリックに渡してくれたのだ。そして、その船と財産を元手に、ラドリックは商人ギルドに登録を済ませ、商人として海に出る事になった。その出航の準備を眺めていたのだった。


「ぼっちゃ・・・いや、船長!出航の準備ができやした、いつでも出られますぜ!」


父の代から船を取り仕切っている副長のエドワードが、ラドリックに声をかけた。気がつけば曇っていた空は晴れている。


(エドはまだ私の事をぼっちゃんって呼ぶのか・・・)


ラドリックは苦笑しながらエドワードの方を向いた


「ああ、今行く」


北の大地では珍しい晴れやかな空を見上げながら、ラドリックはまだ見ぬ遠い異国の海に思いをはせた・・・・





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posted by ラドリック at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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