2006年07月17日

喜望峰沖、波高し

「喜望峰沖にイスパニア私掠艦隊を見ゆ、注意されたし」


知り合いの軍人から送られてきた通信文にはその一言が書かれていた。

セイロンで特産品であるルビーを大量に買い付けたラドリック達は、ヴェネツィア私掠艦隊のセイロン封鎖網を間一髪のタイミングで突破し、インド洋を横断してタマタブに寄港し、一路ケープを目指していた。そして、ナタール沖を通過しようとした時にこの通信文が届いたのである。

ラドリックはその通信文を読むと、急遽ナタールに寄港し、ギムを情報収集に出した。そして、情報収集からギムが帰ってくると、船長室にエドとレイモンドを呼んで、ギムの報告を聞いた。


「ギム、どうだった?」

帰ってきたギムにラドリックが言葉をかける。

「やはりイスパニア私掠艦隊はケープ沖に展開しているようです。目的は不明ですが・・・・・・」

ギムの言葉にラドリックは頷くと、目の前にある机に広げられた航路図に目をやった。その航路図には何本もの線と円、そして注意書きが書き加えられている。

「船長、どうしやす?」

一心に航路図を見ているラドリックにエドが声をかける。

「Merchant roadならケープ前を強行突破という手もあるんだが・・・・・」

ラドリックは呟いた。

このインド行きにおいて、ラドリックは商用ジーベック「HMS Merchant road」を使わず、大量の資金を投じて、商用大型ガレオン「HMS Outskirts of the world」を購入し、それに乗ってきていた。Outskirts of the worldはMerchant roadに比べて搭載量が段違いに多く交易品も大量に積める半面、追い風では速度が出るが、向かい風では速度が出ない横帆の為、ナタール前からケープ沖に向かう向かい風には悩まされる事になる。その為、強行突破は不可能に近かった。

「ケープ沖を避けるには、このナタールから南に針路を取ってアガラス海盆に入り、そこから針路を西に取って、ケープ海盆を経由して南大西洋に抜けて追い風を受けて北上ずるコースがありますが・・・・問題は物資ですね」

レイモンドが航路図を見ながら言った。

「物資か・・・エド、物資を最大限積んでどれぐらい持つ?」

「そうですねぇ・・・・いつものようにケープに寄るつもりでソフィア嬢ちゃんと補給計画を立てたんで、持っても一ヶ月って所でしょうか?勿論、水を最優先にして、船員総出で釣りをしてですがね」

ラドリックの問いかけにエドが答える。そして、ラドリックはまた航路図に視線を落とした。

「ケープに寄るのも危険、迂回も危険・・・・・か」

ラドリックはそう呟くと、羽ペンを手にして航路図に線を書き込んだ。

「どちらも危険なら、私掠艦隊に会わない方を選ぶか・・・・エド、レイモンドは出港準備を頼む。準備ができ次第出航し、一路アガラス海盆を目指す!」

「アイ・サー!」

敬礼をラドリックに返して船長室を出て行く三人。ラドリックは三度視線を航路図に落とす。見つめる先には「Agulhas basin(アガラス海盆)」と書かれていた。






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2006年07月02日

続・乙女の戦い(ソフィア)

お久しぶり!ソフィアです!

この前東地中海でフランス私掠艦隊に拿捕された私達は、拿捕にもめげずに心機一転、母港であるロンドンに戻って宝石商としての登録を済ませ、宝石の取り扱いを学ぶべく、針路を北東に取ったの。私はまたお兄ちゃんがいぢけると思ってたんだけど・・・・お兄ちゃんも日々成長してるみたいね。

という訳で、私たちは今コペンハーゲンに来ています。北欧で産出される宝石は二つ。琥珀と孔雀石なんだけど、孔雀石は値段の割には儲けが少ないの。その点琥珀は地中海やアフリカなどに持って行けば特産品として高値で買い取ってくれるので、どうせなら儲けが大きい方がいいと思って琥珀を買うことにしたんだけど・・・・これがまた大変だったのよ・・・・・





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2006年06月11日

転機


それは突然現れた。

冒険の依頼をこなし、数々の財宝を積んだ商用ジーベックHMS Merchant roadは、アレクサンドリアを出航し、東地中海を脱出すべく一路ベンガジを目指していた。
何故脱出なのか・・・・各国が結んだ不可侵条約で一時期安全海域になっていた東地中海だが、その条約の期限が切れた今、東地中海は私掠船の横行する危険海域に戻り、東地中海の各港はヴェネツィアとフランスの熾烈なる投資戦の中にあった。
そういう理由で自然と各国の私掠艦隊が横行する事となり、ラドリック達も十分警戒して航行している筈だった。


「前方より敵影!ガレアスが4隻です!」

警戒直に当たっていたロイが叫ぶ。夜明け前の薄暗い海を裂くように、その艦隊はMerchant roadを目指して一直線に進んできた。

「レイモンド!回避できないか!」

ラドリックがレイモンドを見る。しかし、レイモンドは無言で首を横に振った。

「くそ・・・・・・」

舌打ちをするラドリック。その間にもガレアスは左右に展開しながらMerchant roadを包み込むように迫ってきた。ガレアスのマストには、フランスの国旗がはためいていた。

「船長・・・どうしやす?」

「どうしようもないな、この風向きでは逃げ切れない・・・・かといって、Raging dragonならともかく、このMerchant roadでは・・・・・」

エドの言葉にラドリックは呟いた。
非武装にしたとはいえ、船員の多いアラビアンガレーであるRaging dragonであれば、白兵戦を行いながら活路を見出す事もできたかもしれない。しかし、交易船であるMerchant roadでは接舷されたら最後、拿捕されるのは目に見えていた。

「ラドリック様・・・・敵艦より信号です。『こちらはフランス私掠艦隊。貴艦は我が艦隊の包囲下にある。無益な抵抗をせず停船せよ、従わない場合は貴艦は海の藻屑となる事だろう』です・・・・」

ギムが敵船からの通信文を手にラドリックの元へ現れた。気がつけば、Merchant roadはガレアスに四方から包囲されていた。

「・・・・・・・エド、停船しろ・・・」

ラドリックはそう言いながら床に視線を落とした。



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2006年06月04日

アガメムノンの仮面(後編)

「おらぁあ!!」

一瞬バヌースに視界を奪われたブル・ハーンであったが、視界が元に戻るとすかさずSanativeを切りつけた。尋常ではない膂力から繰り出されたタールワールの一撃がSanative襲う。

「・・・・・甘いな」

受ければ致命傷になるであろう斬撃を、Sanativeは後ろに下がりながら避けた。

「避けるのはうまいようだな、しかしこれならどうだ!」

ブル・ハーンは、Sanativeを連続で斬りつける。しかし、Sanativeはその斬撃をことごとく避けてみせた。しかも、無駄な動きが一つもない。

「うおおおおおお!!」

業を煮やしたブル・ハーンは、頭上でタールワールを風車のように回して気合を入れると、大きく踏み込んで斬撃を繰り出した。Sanativeはまたも後ろに下がって避けてみせたが、避け方が足りなかったらしく、燃えるような赤毛が数本、タールワールに斬られて宙を舞った。

「やはり武器なしでは避けることしかできないじゃねぇか・・・・さっさとおねんねしちまいな!」

更に斬撃を繰り出すブル・ハーン・・・・・しかし、Sanativeは皮一枚の差でその斬撃を避けた。

「・・・・飽きた・・・・遊びは終わりだ」

「何だと!!」

Sanativeの呟きにブル・ハーンが気がついたときには、Sanativeの体は電光石火の速さでブル・ハーンの懐に入り込んでいた。そして、渾身の力を込めたSanativeの拳が、驚くべき速さでブル・ハーンの鳩尾に叩き込まれる。

「ぐはぁ!!!」

凄まじい絶叫と共に多量の吐瀉物を撒き散らしながらブル・ハーンは地面と不本意な口づけをした。そのままピクリとも動かない・・・どうやら意識を失ったらしかった。

「さあ・・・お前達の首領はこのとおりの有様だ・・・次は誰が相手をしてくれるのかね?」

ブル・ハーンを一撃で仕留めたSanativeは、ブル・ハーンの手下達をその隻眼で睥睨しながらそう言った。

「ひ・・・・ひぃ!!」

一人が緊張に耐えられずにSanativeに背を向けて逃げ出す。ブル・ハーンの手下達は、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ去った。

「おい・・・・首領を置いていっていいのか?」

Sanativeはそう呟くと、ブル・ハーンを足で蹴った。しかし、ブル・ハーンはピクリとも動かない・・・

「まあいいか」

Sanativeは脱ぎ捨てたバヌースを着ると、ラドリック達の方を向いた。

「ラドリック卿、レヴィ嬢、待たせたな。久しぶりに運動もできたことだし、そろそろ探索を再開するとしようか」


Sanativeはそう言うと、廃墟の方に向かって歩を進めた・・・





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posted by ラドリック at 22:48| Comment(3) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月29日

アガメムノンの仮面(前編)

「てな訳で・・・・俺達はあんた達と似たような依頼を受けてる冒険者をそこまで案内するんだが・・・・目的地に着くとそいつらは決まって俺達に賃金を渡して帰るように言うんだ・・・まあ、俺達もそこに居る理由が無いから貰うもん貰ったら帰るんだが・・・・」


その船乗りの話に、レヴィローズは思わず息をのんだ。ここはアテネの酒場・・・レヴィローズはラドリックやSanative=Vixenと共に、ホメロスが書いた叙事詩イアリスが物語ではなく史実であるという確証を探すべく、トロイ戦争におけるギリシャ側の総大将であるアガメムノンについての情報を集めるためにアテネに来ていたのだった。

「そ・・・・それで、貴方の案内した冒険者の方々は?」

レヴィローズは恐る恐る船乗りに続きを聞いた。

「さぁなぁ・・・・街に帰ってきたって噂も聞かないし・・・・もしかしたら俺達の案内した所に真新しい死体となって山積みになってるのかもしれないぜ?あんた達も気をつけたほうがいい・・・・」

「お兄様・・・Sanativeさん・・・・まさか私たちも騙されてるんじゃ・・・・」

レヴィローズはラドリックとSanativeの方を向き、不安げな表情で二人の顔を見た。ここに来る前に寄ったマルセイユの冒険者ギルドのギルドマスターが、同じような依頼を受けた冒険者達が一人も報告に来ないと訝しがっていたのを思い出したのだ。

「う〜ん・・・その可能性も無いとは言えませんが・・・・取りあえず商会長と私が居ればレヴィさんの安全は確保できると思います。どうです?商会長?」

ラドリックの言葉にバヌースに身を包んだSanativeは静かに頷いた。

「うむ、大丈夫だろう・・・・まあ、今の俺はしがない冒険者だから、荒事は英国紳士たるラドリック卿にお任せするが?」

「商会長・・・・勘弁してください・・・・」

「うふふ」

ラドリック達のやり取りを聞いて、レヴィローズは心の中の不安が無くなっていくのを感じた。自然と笑みがこぼれる。

「どうやらレヴィ嬢も安心したようだし、ラドリック卿、そろそろ行くとするか」

「了解です商会長」

Sanativeとラドリックが席を立つ、そして二人は酒場の出口に向かった。

「ありがとう船乗りさん、これはお礼よ」

レヴィローズは船乗りの手に金貨を握らせると、ぺこりと頭を下げて酒場を出て行くラドリック達を追った。船乗りは、情報料にしては多すぎる金貨を握り締めながら酒場を出て行くレヴィローズに視線を送った。


(お嬢さん・・・・あんた達の無事を祈ってるぜ・・・・)




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posted by ラドリック at 23:39| Comment(6) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月07日

一夜の夢


「お兄ちゃん・・・・まだ見つからないの?」

夕日が大地を紅く染める・・・・額に浮いた汗をハンカチで拭きながら、ソフィアはラドリックに言った。

「あのなぁソフィア・・・・遺跡や財宝探しって物は、美術品なんかと違って、ある所がちゃんとわかってないものが多いんだ。だから探索には時間がかかるんだよ」

もう何度目だろう、ラドリックは探索の手を止めてソフィアに言った。ラドリックはナポリのギルドマスターから、ビザンツ帝国の皇帝ユスティニアヌス1世を支えたという皇妃テオドラについて調べるという依頼を受けて、エドやソフィア、ディック達と共に、サロニカの奥地に来ていたのだった。

「でももう二日も同じ場所を行ったり来たりしてるよ?大体の場所が分かってるんだったらもう見つかってもいいんじゃない?私もう疲れちゃったよ」

ソフィアが近くの木の根っこに座り込みながらそう言った。ラドリックは今回も少人数で行くつもりだったのだが、ソフィアがついて来ると言い張った為、万が一の事も考えてエドやディックも連れてきたのだった。

「確かにソフィア嬢の言うとおりですな。もう日も落ちてきたことですし、今日はここで野営しては如何でしょうか?」

通訳として同行していたミハイルがそう言った。

「・・・・そうだな、今日はここで野営しよう。みんな、野営の用意をしてくれ!」

ラドリックがそう言うと、全員が野営の準備に取り掛かった。ラドリックは木の根っこに座り込んだソフィアの元へ行くと横に座った。

「どうだソフィア、冒険も結構大変だろ?このままではあと何日かかるか分からない。どうだ?ディックを護衛につけるから先に帰らないか?」

「冗談じゃないわ、そうやって私を追っ払おうとしてもそうはいかないんだからねお兄ちゃん」

ソフィアはそのラドリックの言葉に首を振りながらソフィアは言った。

「そんなつもりは無いがな・・・・しかし何でついてこようと思ったんだ?」

「それは・・・・ミハイルさんに聞いたの。テオドラって人は平民の出身だったって」

ソフィアはラドリックの顔を見ながら言葉を続けた。

「平民の出で皇帝の奥さんになれた人ってどんな人だったのかなって思って・・・・ちょっと興味がわいたから」

「なるほど・・・・確かに皇妃テオドラは平民出身だったらしい。昔はサーカス団で舞姫をしていて、その舞は右に出るものがいなかったそうだ。ユスティニアヌス1世はテオドラに一目惚れして、当時の法律を改正してまでテオドラを皇妃に迎えたらしい」

「そうなんだ・・・・・」

ラドリックの説明を聞きながら、ソフィアは考えていた。法律を改正してまで妻に迎えたい女性とはどんな人だったのだろう・・・・・

「船長、ソフィア嬢ちゃん、野営の準備ができましたぜ!」

野営の準備を整えたエドがラドリック達に手招きをしていた。ラドリックとソフィアは立ち上がると、エドの方に歩いていった。




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posted by ラドリック at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月29日

友、遠来より来る(エド)

お久しぶりです、エドでさぁ。

Manon船長の護衛が終わったあと、あっし達は一旦ロンドンに帰ってきやした。ぼっちゃ・・・いや、船長はやはり中途半端で冒険稼業ををやめるつもりが無いようで、Raging dragonを冒険仕様に戻すために工房長のモーガンと造船所につめてやす。当然船が動かない以上、あっし達も開店休業って訳で・・・・・

「おやっさん!」

おっと、ロイの野郎が呼んでるみたいでさ。なんか変わったことでもあったんですかね・・・?

「ロイ!どうしたい!」

あっしはロイの居る方に歩きながら呼びかけに答えやした。

「おやっさんにお客さんです。なんでも幼馴染だそうで・・・・」

「俺の幼馴染だと?」

あっしはロンドンの生まれじゃありません。生まれたのはアドリア海の再奥に位置するヴェネツィアなんでさ。ですからこっちに幼馴染なんて居ないはずなんですがね・・・

とにかくあっしはその幼馴染が待ってるっていう方に向かって歩きはじめました。





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posted by ラドリック at 16:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 航海士達の日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月22日

炎の宿命(さだめ)

「ルアンダはまだ見えないか!!」

ラドリックは苛立っていた。ラドリックは商会長Sanative=Vixenの依頼を受け、ライザ・ミドルトンと海の旅団の司令官を探し出すべく一路ルアンダを目指すManonの護衛として、リスボンを出航したのだが・・・・

「サントメを過ぎてもう二日がたちます、そろそろだと思いますが・・・・」

横に立つエドが心配そうな顔をしてラドリックを見ていた。途中嵐により舵を損傷したRaging dragonは、一旦サンジョルジュに寄港して修理を受けた。ラドリックは修理が完了してからの同時出航をライザに進言したのだが、焦るライザはラドリックの進言を用いず、フレデリクやManonと共に先に出航してしまったのだった。

「・・・・商会長の情報では、最近ルアンダ沖にはイスパニアの警備艦隊がうろついているらしい。商船に偽装してる限り心配はないと思うが・・・・嫌な予感がする」

ラドリックはそう呟いた。胸の中に沸き起こる不安がラドリックの心を支配する。ラドリックはリスボンを出航する前にフレデリクが言った言葉を思い出していた。


「俺達の行く手を阻むものがいれば撃破してでもエグモント達と合流してみせる」


「こちらから仕掛けなければいいが・・・・」

ラドリックがそう呟いた時、メインマストの上で警戒直に当たっていたロイが叫んだ。

「前方に艦影!数は・・・・・6隻です!」

その叫びにラドリックは船首方面を見た。前方では6隻の艦影が入り乱れていた。そして・・・・砲声がラドリックの耳に聞こえた。

「く!!不安が的中したか・・・・ディック!最大船速だ!全員第一種戦闘配備!」

速度を上げたRaging dragonは、ルアンダの前で死闘を繰り広げる艦影の群れに一直線に突入して行った。






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2006年04月16日

決意と痛みと

「ふぅ・・・何も無いってのも退屈なもんだなぁ・・・」

ビスケー湾を北上するRaging dragonの船上でエドは呟いた。
ラドリック達はリスボンで受けた依頼のために、一路ロンドンへと向かっていた。ハンブルグからロンドンへ帰ってきているエルウッドを迎えに行くと理由もあったのだが・・・

「しかしおやっさん、うちの船長はいつになったら軍人に復帰するんですかねぇ?俺はもう不満で不満で・・・」

エドの横に立って周囲を見回していたディックがエドに言った。確かに今のRaging dragonは武装をすべて取り外し、ひたすら冒険者ギルドの依頼をこなす為に東奔西走している。甲板長であるディックとしては、仕事が無いのが不満だったのだ(まあ、甲板長の仕事は戦闘だけではないのだが・・・)。

「さぁな、船長は一度決めたことはよっぽどの事が無い限り翻さない性格なのはお前も知ってるだろうが」

「だけどおやっさん、今日も移動明日も移動って生活はいい加減飽きたぜ、たまにはドンパチをやりたいと思いませんか?」

「そりゃ俺も思わないでは無いがな・・・・この船の船長は坊ちゃんだ、俺達は坊ちゃんの意思に従うだけだ」

「けれどおやっさん・・・」

更にディックが言おうとしたその時、メインマストに上がっていたロイが大声を上げた。

「後方から急速に接近してくる船があります!艦種はガレオン級!」

「敵襲か!」

その声に二人は一斉にメインマストを見上げた。

「いえ違うようです、識別旗はイングランドの物です!」

「なんだよ・・・せっかくドンパチが出来るかと思ったのに」

ぼやくディックをエドはたしなめた。

「おいおい、今のRaging dragonの兵装でガレオン相手に勝てると思うか?」

「まあそりゃそうですが・・・・」

エドはディックにそう言うと、船尾方向を見た。確かにガレオンがRaging dragonに向かって接近してくる。

「ロイ!万が一ぶつかると面倒だ、あちらさんに針路を変えてもらうように信号を送れ!」

「了解!」

エドの言葉にロイが信号を送る。しかし、後方のガレオンは信号を無視して接近してくる。

「おやっさん!信号を送っても返事が来ません!」

「なにぃ!あっちの船の野郎はめんたまついてんのか!」

エドはそう叫ぶと再び船尾方向を見た。後方のガレオンはその巨大な船体を物ともせず、高速で接近していた。

「レイモンド!後ろの馬鹿野郎はこっちにぶつける気らしい、回避運動を頼む!」

「了解!」

レイモンドが舵を切ると、Raging dragonは大きく右に傾いた。後方のガレオンはそのまま直進し、Raging dragonと併走するように速度を落とした。

「馬鹿野郎!何処の所属の船だ!」

お互いの顔が見える位置まで接近してるガレオンに向かって、エドは叫んだ。ガレオンの船員は薄ら笑いを浮かべたまま返事をしない。その態度に頭に来たディックが叫ぼうとしたその時、ガレオンの甲板にバヌースを着た一人の男が現れた。

「あ・・・・あんたは・・・・!?」

あまりの事に呆然とするエド達に、その男は笑いながら言った。

「相変わらず血の気が多いなエド」

「あ・・・いや、そりゃあんなことされれば誰だって・・・」

しどろもどろに答えるエドに男は言った。

「まあこちらも悪ふざけが過ぎたと思っている。しかし、冒険ばかりしていても有事の時の腕は落ちていないようで安心したぞ。いまからそっちに乗り移るから前をあけてくれ」

「ちょ・・ちょっと待ってください、オールをしまって艦を近づけます。いや、お互い停船して・・・」

「必要ない」

男はそういうと、舷側から飛んだ。そう・・・・飛んだと表記するのが正しいだろう・・・・男はバヌースの裾をたなびかせ、まるで鳥が木に止まるようにRaging dragonの甲板に舞い降りた。

「ラドリック卿は艦長室か、いや、案内は要らん。この艦種は乗りなれてるからな・・・・勝手はわかる」

その男はそう言うと、艦長室に向かって歩を進めた・・・


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posted by ラドリック at 21:25| Comment(8) | TrackBack(0) | ラドリックの航海日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月08日

遺言(エルウッド)

青く澄んだ空に無数の煙があがる街並み・・・・

私はラドリック船長に休暇を貰い、北欧最大の工業都市ハンブルグに来ていた。

先の模擬戦で完膚なきまでに叩きのめされたラドリック船長は冒険家に転職し、元々軍艦であるRaging dragonを非武装船に改造して冒険者家業に精を出していた。

無論、非武装になった以上、砲術長である私の仕事は無い訳で・・・・砲術長として、そしてウォルフ家の一員としての自信を失っていた私は、これを機会に一度家に帰ろうと思い、船長に休暇を貰ったのだった。

実は実家を飛び出してから一度も家に帰っていないので一人では帰りづらく、このハンブルグの酒場で兄のイザークと待ち合わせをしていた。

(突然帰ったら・・・・ムッター(母さん)はともかく・・・・ファーター(父さん)はどういうだろうな・・・・・)

私は一抹の不安を抱えながらも、酒場の扉を押し開けた。


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posted by ラドリック at 17:55| Comment(6) | TrackBack(0) | 航海士達の日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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